秋日和

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新年あけましておめでとうございます。
  荒海へ船出する水夫のように
    心引きしまるのを笑って乗り切りたいものです。
 
「秋日和」S35年製作。脚本野田高悟、監督小津安二郎。
 出演原節子、司葉子、佐分利信、中村伸郎、北竜二。
正月に観る映画が本当になくなった。
いわゆる正月映画、初笑い喜劇なとが正月興行からなく
なって何年経つのだろう。寅さん映画の終了が最後か。
仕方ないので家で「秋日和」を観た。
宝石のような映画だ。若いとき小津映画をフィルムセンター
へ通って全部観たとき、正直晩年のこの作品は主題のくり
返しで退屈だった。それが年とって煮物が好きになるよう
に恋しくなった。この映画は「晩春」の母版だと言えるかも
しれないが、この前年に撮った「お早よう」と同じく無声映画
でやってきたコメディとペーソスの再生だったように思う。
 60年安保の年にこれをつくり、黒澤が「悪い奴ほどよく眠
る」と年跨いで「用心棒」をつくる。
時代に背を向けて娯楽をつくった。
当時の批評家は、小津も黒澤ももう死んだとまで言った。
しかしこの「秋日和」を今回観て、ずっと笑いながら感涙
を禁じ得なかったのは、失われたものへの哀切が貫かれて
いるからだ、とわかった。
小津さんは、よく見ると物語をはじめる前に喪失感をすで
に提出していて、それをどう乗り越えるかをいつも語って
いたのではないか。
父を亡くして母娘で生きてきた未亡人。
母を亡くして継母で育った元気な岡田茉莉子。
子供が大きくなって親の言うことを聞いてくれない父親。
妻を失って痒いところに手が届かない平山。
愛を見失って家を飛び出す娘。
戦争で大事なひとを失い、竹馬の友を病でなくす。
仕方ないけどこの現実を受け入れて生きていくしかない
だろう。と小津さんは微笑んでいるように見える。
ロスト・ライターの小津安二郎。
これを笑いとペーソスで役者の配置やセリフ構成を磨き
あげて宝石のような映画をつくった。
この宝石は、人間が年をとるにつれて輝き出す。
半世紀前の映画だよ。しかも世界中でまだまだ輝いている。
こんな映画を今誰がつくっているのだろうか。
正月は、小津を観る。
これがしばらく習慣になりそうだ。

 
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by stgenya | 2010-01-06 07:05 | 映画・ドラマ
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