おとうと

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「おとうと」脚本山田洋次、平松恵美子、監督山田洋次。
 「学校」以来の13年ぶりの現代劇。
渋谷のシネパレスの夕方の回で30人の観客。
高齢者が多かった。劇場としては苦しいのでは。
 映画はかつて昭和35年の市川昆監督「おとうと」(岸恵子主演)
のリメーク。なぜこれをやりたかったのか、鶴瓶と吉永小百合で
「寅さん」の逆バージョンができると思ったのではないか。
幸田文原作の設定を少し変えている。前作ではおとうとは学生で
継母で育った姉に迷惑をかけて病死する。
 姉を未亡人にして一人娘の蒼井優がいることにしてこの結婚
から話をはじめて、語りも蒼井がやり、語り部になっている。
今回の山田版「おとうと」は、前半の寅さんばりのコメディは
あるものの、後半にホスピス施設のシークウェンスへかかる運び
からして「故郷」「同胞」「学校」の社会派ドラマの部類に入る。
 正直鶴瓶のおとうとの前半の結婚式をぶち壊す破天荒ぶりと
ラストに向かう悲劇との琴線がどうもつながりにくかった。
なぜか。岸恵子と川口浩の姉弟には強い絆があったが、吉永と
鶴瓶には何があるのか。この二人を結んでいる幼い日の糸という
ものが設定として(書かなくてもいい)きちんと決まっていない。
鍋焼きうどんを最後に食べるエピソード。
あるいは、なぜ「ドサ巡りの役者」になったのか、
鶴瓶の人を憎めない良さとは何か、寅さんのように不幸な人を
無償で喜ばす天使のような才があるのか、
姉の初めての子供の名づけ親になったことで姉に何か人生で
救われたことがあったのか、
などなど前半から中盤へかけてのおとうとの迷惑ぶりは、単に
迷惑で理知的な吉永がおとうとの女に対する借金を払ってやる
だけの心の流れがのみ込めない。
ここがああ、それがあるからそこまでやってしまうのかと後で
もいいから納得できればいいのだが、それが曖昧だからラスト
の感動が薄い。愛すべきおとうとよ。愛すべき人よ。
心弱き者よ。無名で無賃でさびしく逝く人生でおまえは決して
ひとりではなかった。なぜそんなにさびしかったのか。
でもこの世で唯一の姉だけがおまえを看取ったよ。
市川版はこうなっていて、岸恵子の悪辣ぶりもよかった。
山田洋次は、設定を変えても姉弟の関係がどうだったかを
深く書くより、無賃労働者の最後の面倒を看るホスピスの活動
に興味があったように思えてならない。
時代はどうあるか、人間の生き方に何が問われているか、
そして今の人間に変わらないものがあるとすれば何か。
現代劇は、何をやっても底辺でそれが必要になってくる。
久しぶりの現代劇で山田洋次は何を取っ掛かりに「おとうと」
をやりたかったのか、いまいちわかりにくかった。
 やはり鶴瓶の「坂田三吉」がもっと面白ければよかったと
思うし、ああ、この人は最後までこれだったのかと納得できる
寅さんの啖呵売の力があればよかったのにと悔む。
しかし娘役の蒼井はよかった。蒼井優は相変わらずいい女優だ。
どうして普通の顔なのに芝居をすると生き生きとその世界に
生きているのだろう。本当にすばらしい。
 最後に木下恵介の晩年の作品(息子よー)のようにドラマ
の密度が希薄になっていくのに今回似ているように勝手に
思ってしまった。
 見終わって劇場を出てゆく時ちょうどラサール石井さんが
後ろを歩いて行きながら「淡々とした映画だ」とため息まじり
に呟いていた。自分が出ている映画なのに・・・
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by stgenya | 2010-02-08 14:29 | 映画・ドラマ
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