「海角7号 君想う、国境の南」08年ARS フィルムプロ。 脚本・監督魏徳聖(ウェイ・ダーション)。台湾映画。 主演ファン・イーチェン、田中千絵、中孝介、梁文音 去年末からロングランになっている台湾映画。 シネスウィッチ銀座で二月でもほぼ満席。 年齢層は、若いカップルから高齢者までいて十代〜二十代前半 がいなかった。 これは、日本だとアルタミラの矢口君とか周防君がやりそうな 試合へ向けたバンドの結成から実演までを描くコメディ映画で ある。そこにかつての日本統治時代の別れた恋人の手紙のエピソ ードが入る。 台湾の田舎町で日本の有名な歌手が来るというので町を代表し て前座のバンドをやることになって、郵便配達や警官や、酒の セールスマンなどが急場で集められ紆余曲折があって前座を無事 つとめるというストーリーだが、かなり荒い作りになっていて 肝心の配達先がわからないラブレターの束(終戦で日本に帰って 行った教師から日本人の友子という台湾に残った恋人へ出され たもの)の話は、完全に裏になって描く割合は思ったより小さい。 だからこのシノプシスは、はじめバンドを結成する話に後から 日本人の昔のラブレターの話をくっ付けたと疑うほど手紙の話 が小さい。 では失敗作かというと、なかなかよく出来ていて最後は涙が とまらないほど感動した。 裏で描いている昔のエピソードがきちっとバンドの演奏の曲と つながるのだ。これは逆にかなり高度な仕掛けと思ってしまう。 それは、シューベルトの野バラは見たり♬野中のバーラ♪の 唱歌がとても重要な役割をしている。 はじめに老配達夫がバイクで配達しながらこれを日本語で 歌っている。しかしこの爺さんが怪我して夢破れて帰郷してい たバンドマンのアガ青年と代わり、又バンドのベースがいなく てこの老配達夫が台湾三味線の名手で参加するが外され、タン バリンを嫌々やらされる。 そして最後の演奏会で練習曲以外にもう一曲となって野バラ を三味線で爺さんが演奏する。これと日本人の63年前の別れ た恋人の話が被る。全員で野バラを歌う。 こういう風に完全にどこの誰でという詳細がなく裏で描いて そのテーマである「愛の再会」を映画にすることができたもの というのは、見たことがない。 普通はもっと台湾にいた日本人の女の素性や設定を描くし、 分量も入ってくる。それが遠慮しているほど少ない。 でもラストが感動できる。 このシナリオの作り方は、懐かしい曲とその時代背景との関係 に似ている。ある昔のよく聴いた曲を久々に聴いて、その当時 の思い出や時代が蘇ることがある。 この「海角7号ー」は、それなのだ。 そういう意味で言うと変わったつくりの映画だ。 映画の構成は、ある目標へ向かって進んでいく。それが表向き みんなが一つの目標へ実際に進んでいくものもあれば、主人公 の内面だけで何かへ収束するために進んでいくものもある。 バンドをつくって無事演奏するという目標。 バンドのリーダーの男アガと日本人のアシスタントの女との 喧嘩して最後に愛し合うという目標。 かつての日本人の教師が書いたラブレターを60年過ぎて相手 の女に届けるという目標。 この三つがシューベルトの「野バラ」でつながる。 これは映画でしか出来ない方法だ。 もしこれを日本の会社がやろうとするとすぐに日本人教師と 恋人の話や設定をコテコテにはめ込もうとするだろう。 又アガや日本アシスタントの田中千絵のセリフをアザトく 使ってなぜかつての日本人の恋人たちは別れたのかとか 言うだろう。するとあっ言う間にお安い映画になってしまう。 それを意図したのかわからないが「野バラ」だけで説明せず バラバラのままカットをつなげて、そのエピソードも時代背景 も抽出して観客に感動を与える。 これはゴテゴテした邦画のお安い作りの映画群は見習わなくち ゃならない。 長編第一作だというがこのウェイ・ダーション監督は映画の ツボを知っている次が楽しみ監督である。
by stgenya
| 2010-02-20 18:55
| 映画・ドラマ
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