トロッコ

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「トロッコ」脚本・監督川口浩史。製作ジェイアンドケイエンターテイメント。
 日本映画を台湾で撮った作品。原作芥川龍之介。しかし全編ほぼ台湾語。
出演尾野真千子、原田賢人、大前喬一、ホン・リウ、チャン・ツァン他。
台湾と日本の協力した映画が今年になって続々出て来ている。
なぜかわからないがどれも何か現在の社会が忘れていたものを呼び起こし
てなつかしいココロ落ちにしてくれる。
 もともとホウ・シャオシェンの優れた映画が世界にでてきたのは20年前
だったが、その彼の撒いた種が台湾と日本の青年監督たちに芽生えて来た。
 ストーリーは、台湾人の夫を亡くした日本人の妻は、遺灰を届けるため
に台湾へ子供二人をつれて行く。そしてその台湾の田舎は森林鉄道があり
森で仕事をしている青年と日本名をもった老人に子供たちは会う。
 母親は、男の子をこれからどう育てていかなければならないか悩んでい
た。正直長男は反抗期にさしかかっている。台湾人の祖父ちゃんに亡き父
の持っていたトロッコの写真をみせるとトロッコと一緒に移っているのは
父ではなくその祖父ちゃんの子供時代だった。そのトロッコに乗って幼い
兄弟は、冒険へ出る。母は、心配して町中を探し回る・・・
 そして台湾を離れる日。息子も母も少し心が強くなっていた・・
これは、言ってみれば小津の「東京物語」の原節子の役を尾野真千子が
やっていて未亡人に子供が二人いたと仮定してつくったのではないかと
と見立ててもいいと思う。
 母親が義父に自分のこころのうちを告白するところのクライマックス
はすばらしく母一人で子を育てて生きるということの切実さが胸に迫る。
篠田正浩などの助監督を長くやってきた監督だけあって、演出にねばり
があって瑞々しくいい出来になっている。
 ただやはりあの原節子が義父に「私、ズルいんです。」というセリフ
の普遍性を再度認識してそれを超えるまでの人間洞察になってはいない。
まあ、それだけ小津・依田脚本のすばらしさが際立っているかの現れだが。
 でもこの川口という監督の力がいまの邦画の若手監督たちと一線を
かくしていることは明らか。山のようにつくられる新作で現場経験のな
い若手にただ安いからと脚本監督させている愚かなプロデューサーたち
は是非見てほしい。
映画撮影の現場と才能の発掘は、本来表裏一体の筈だった。
それが売れった原作と名のある俳優とお金と宣伝で駄作をつくりつづけ
て結局その若手監督にとっても不幸なものになってしまう。
「南極料理人」は短編しか撮ったことのない監督に撮らせて最悪のもの
になってしまっていた。それからするとこの川口監督はいいスタートが
切れたのではないだろうか。
 日本人の本来もっていた礼節や正直さ・勤勉を台湾の古い人たちは
今でも信じている。トロッコという前世紀の乗りものに乗って、その忘
れていたものを呼び起こしてくれる夕立ちのような映画だった。

 
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by stgenya | 2010-06-13 05:47 | 映画・ドラマ
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