硫黄島からの手紙

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 クリント・イーストウッド監督28作目。「父親たちの星条旗」の姉妹編。
  アメリカ人が初めて日本人をナチュラルに描いた戦争映画。
多少の脚本上の人物説明が複雑でも戦争というものに正面から
切り込んだ秀作だった前作から今度は日本編だというのでかなり
期待して見に来た客の中にあまりにドキュメント風なので戸惑って
劇場を出て行くカップルの姿があった。
 はじめから言ってしまうが、感動巨編を、「シンドラーのリスト」なん
かを想像してきた人は、肩すかしされる映画である。
 丁寧に日本兵が何もない硫黄島で追いつめられて約2万8千人
もせん滅するまで描いて、人間の戦場での様々なタイプを表現し
ていく手腕がしっかりしている。
しかしシナリオ的に「手紙」がどうこの映画で構成されていたか、
何よりも立派だった栗林中将の家族に当てた手紙がこの物語
の進行役をし、最初に現在の硫黄島の発掘隊が掘り起こす
栗林の手紙やメモの入った袋で明かされる戦場での真実や実態
のようなものがうまくキーワードとして活かせればよかったが、
そうはならなかった。
 むしろ日本兵によって手当されたアメリカ兵の持っていた手紙
の方が感動的だった。その息子を無事に帰ってくることを
願った母親の手紙は、終盤で疲れきった日本兵たちの涙して
聞いている姿と交差して胸に迫る。
 アメリカに住んだことのあった栗林の絶望的な状況での司令官
としての力量と人間的な対処のしかた。
 玉砕を強要するが自分は最後まで生き残る中村獅童の軍曹。
オリンピック選手だった上官は、最後の最後で捕虜のアメリカ兵
に情けをかける。これは美味しい役だが、あの愛馬を玉砕の島
に本当につれてきたのか、馬好きとしては史実を調べたい。 
憲兵を犬を助けたためにクビになった加瀬二等兵が戦争に
懐疑的で最後に投降して捕虜になるがアメリカ兵に撃ち
殺される。そしてそれらを生き証人のように最初から最後まで
見てくる元パン屋の二宮の西郷二等兵。
 栗林の手紙、西郷の手紙、捕虜の手紙とこれらをつら抜く
家族への思いと家族の出征兵士への思いを一本にできれば
確かに感動作になっていただろう。
 しかしイーストウッドは、そんな作り話をやりたいと思わな
かったのではないか。資料を調べていくうちにこの戦争の
悲惨さをできるだけありのままに作ろうとしたのではないか。
それがこの映画をドキュメント映画を見終わった感じに
させたように思う。
「Honkytonk Man」で死に行く者への思慕を描いたC・
イーストウッドの本能がめんめんと貫かれていて、玉砕する
人間への静かな観察者になっているように思える。
彼の血の中には、確か4つの民族の血があってその中に
スコットランドの名家の流れをくんでいた。
その地には、立派な大人になることは、study to be quiet
という諺があるが、まさに彼の現在の映画の骨格になっている。
いわゆるB級映画をやって来てハリウッドで富と地位を築いた
彼がいま大人の映画を作ろうとしている。
そこを見逃さないで見ていこうと思う。
因みに今回の「硫黄島からの手紙」で音楽を担当している
のがいつものイーストウッドだけでなく息子のカイルが加
わっている。Honkytonk Manのあの少年だ。
そしてさらに脚本のポール・ハギスが一番おいしい%で映画
の上利を貰えるエグゼクティブ・プロデューサーになっていた。
だったらもっとまじめに脚本を描いてほしかった。
夜日の丸をあげてなくて憲兵が非国民と怒鳴り込んでくる
ことはない。日の出に掲揚して、日没にしまったはずだから。
あるいは手紙をもっとうまく使って欲しかったね。
資料にまったく目を通さず書いたと告白して悪びれない
脚本家のポールさん。
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by stgenya | 2007-01-03 18:46 | 映画・ドラマ
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