歌謡曲だよ、人生は

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 アルタミラピクチャーズ企画制作「歌謡曲だよ、人生は」。
9人の監督によるオムニバス映画である。
 映画業界の節目節目に登場するオムニバス映画。
ここには、新人監督が活躍するエポック的な役割を果たす
ことが往々にしてある。Jam Filmsの行定監督やWowowの
J・movie・warsや森田芳光の「バカやろう!」シリーズの篠原
監督などその後の活躍の片鱗を覗かせてキラリと光るものを
見せてくれる。
 又監督をそれぞれ競合させる面白さと映画として一本のテーマ
やモチーフをもっていることの時代性という二つの特徴がある。
この「歌謡曲ー」の企画は、製作にポニーキヤニオンが入っている
ことからもそのものずばり昭和歌謡のテイストをとりあげている。
まず40年前の昭和歌謡は昨今の昭和レトロプームでいいだろう。
オムニバス映画のもうひとつの柱である監督の選択であるが、
「ユニット5」関係の磯村、水谷は、アルタミラPの周防君と並んで
主軸だからいいが、中には映画初めての異業種人が目立つ人選
である。蛭子能収さんなんかおもしろかったが・・これが新人監督
を輩出するという点で成功したかどうかは今後を見たい。
 私としては、やはり矢口史靖の「逢いたくて逢いたくて」が一番
面白かった。引っ越してきた若いカップルとそれまで15年間
住んでいた中年男の話は、短編の切れ味が見事につくられている。
「ウォーター・ボーイズ」以来の妻夫木との組み合わせもよかった。
男の残していったストーカー紛いの手紙の山が最後に一通の
返信はがきが来たオチでいままで気持ち悪がっていた夫婦が
全力疾走で去って行く男へ手紙を届けにいくスローモーション
はいかにも矢口色だった。持ち時間が10分というのはこの話
にとってあまりに短い。あと5分(1話の磯村一路だけ15分)
あったらもっと胸にぐっと来る余韻が出せてたのにと思う。
 三原光尋の「女のみち」も宮史郎本人の刑務所帰りのやくざの
演技に圧倒される形で意外に面白かった。
今回の企画が歌謡曲の短編集なだけカラオケビデオになって
しまう危険性があった。制作者はここを「僕は泣いちっち」と
「乙女のワルツ」が抜けきらなかったのは、残念だ。
 オムニバスのいいところは、いずれにしても現代の世相が出る
というところである。愛のかたち。想い出す若かった頃と今の
主人公の生活。作者が生きている日本が正直に出てしまう。
だから監督・脚本の人選が大事なのである。
母親が我が子を川で殺し、我が子が母親の首を切り取る日本。
バブルをつくった銀行が合併に隠れて高い手数料でノウノウと
最高の利益をあげ、老舗の食品会社が手抜きをして連日社長
が頭をさげ、犯罪被害者から見事のがれ出所して普通の大人
の生活を立派に送る少年加害者。これらが日本の一面。
 こんな嫌なことから昭和歌謡でしばしココロに潤いと生きる活力
とを取り戻したい。昭和ブームとは、原っぱの自由と人と人の
生のぶつかり合いをもう一度日本人のココロの底から呼び戻し
原点に還るルネッサンスではないだろうか。
 だとすれば昭和歌謡のオムニバス映画がふれる日本は、もっと
ココロに響く現実とフィクションの切り取りでなければならなかった
のではないか。それにしては約半分の短編は、その辺が無自覚
なように思われる。
つまり監督が日頃どんな生活をしているか、が問われるのだ。
 まあ、オムニバスの良さは2本でも3本でも自分が面白いと思う
ものがあればそれでよしとできるところか。
今回の映画で妻夫木と武田真治の走る姿がこれほど美しいと
いうことの発見は、決して損はしない映画だったということの
裏返しでもあると思おう。これは。
武田真治は、これから役所広司のように化ける素質を持っている。
その調子でからだを鍛えていてほしいよ。
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by stgenya | 2007-05-19 18:40 | 映画・ドラマ
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