’05年製作「The Conversations with other women」 ハンス・カノーザ監督・ガブリエル・セヴィン脚本。 これは、実験的な手法で全編通した映画だった。 シネマスコープを左右二画面に分けたデュアル・フレーム手法。 ファーストシーンの結婚式のバンケット・ルームで男と女が 出会うカットで横長な画面でタバコを吸い、ワインを勧めながら ぎこちない男と女、アーロン・エッカートとヘレナ・ボナム=カーター の会話の何でもないフルショットが少しおかしい。 花嫁の付添い人だというヘレナ。花嫁の兄だというアーロン。 ふたりの間で横切る人が消えていく。画面が左右に分割されている ことにやっと気づく。 それから後は、普通やる二人のカットバックを二画面でそのまま つなげて、結婚式のブーケ投げや参加客などのカットもこの一つ の画面に並べて、カッティングしていく。 しかもこの元カップルだったふたりの過去の出会いや一緒になる までの回想もここの現在の画面のとなりに平行して並べていく。 またにエレベーターでヘレナの部屋に向かうアーロンとヘレナに 知り合いの女が乗りあわせて気まずくなる場面では、スリー ショットが一画面のようにつなぎ合わされていた。 しかしこの後ベットで焼けぼっくりに火が付きふたりの別れた 経過と今の生活が吐露されるラストまでこの手法がつづく。 正直言って、疲れた。 ムビオラで編集しているみたいで会話の把握と画面の選択とを 同時にやらなければならないので、母国語でない場合は、かなり 疲れる。これが舞台劇のような会話ラブストーリーでなければ まだいいのかもしれない。たとえばサスペンスとか・・・ スタイルが長くなったが物語は、ニューヨークのホテルで妹が 結婚式をあげるので駆けつけた弁護士のアーロンと花嫁の友人 でロンドンからやってきた医者の女房のヘレナとが、再会して だんだん昔ふたりが付き合っていた関係だったということが わかってくる。そしてふたりとも現在のそれぞれの生活がある けれども夜をこのホテルで共にして一線を越えてしまう。 昔若い頃はじめて出合った緑の木陰や着ていたツートップの ドレスや読んでいた本や抱き合い、ケンカした思い出が再会の ベットの上で語られていく。 求めていたものと手に出来ないもの。 中年にさしかかった男女の切ないラブストーリー。 ここでこの手法で二箇所監督が工夫しているところがある。 このデュアル・フレームでやった場合、どう編集するか。 カット割をここで並べていくだけでは、せっかくのアイデアが 勿体ない。そこで単に並べるだけでなく、前半エレベーターに 乗ったら帰れなくなるとおそれるヘレナのA面カットが二回目に エレベーターの乗る顔のアップで時制を戻している。 つまり逡巡している演出でつないでいる。 又もうひとつ面白かったのは、ベットインのあと留守電でヘレナ の夫の幸せな伝言を聞いたあたりから、A面B面の彼と彼女の カットがときどき別テークをつないでいる。 彼の彼女に対する思慕が強まって、もう一度彼女を手に入れたい と想いをつよくするシーンで笑って会話しているのと同じ情況で むっとして会話するのと2通りをつないで人間の表と裏を表現 しようとしている。 この新しい編集手法は、映画がモンタージュを手にしたときと 同じようにこれで名作をつくって初めて実験でなくなる。 個人的には、これを全編やるより、効果的に使う方がいいと思う。 黒沢清の「ドッペゲンガー」という映画で一部使われていたと 思うが、その映画の元は、スウェーデンのビデオアーティストが 使った実験的な手法だった。 ひとつのアートの分野から映画のフィールドまで表現というのは 広がるものだ。 ただ使用には程度があり、その選択を考え抜いた方がいい。 ヒッチコックの全編ワンカットの「ロープ」のようにつづいて毎回 使えるものではなかったのは、ぼくたちはよく知っている。 最後にヘレナ・ボトム=カーターの中年女が髪をとかしてベット に入ったときの表情は、さすが女優。魅力的に変身していた。
by stgenya
| 2007-05-31 11:46
| 映画・ドラマ
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