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インランド・エンパイア

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INLAND EMPIRE 。デビット・リンチ脚本・監督。
 3時間の長編映画。デビット・リンチは、前作の「マルホランド・ドライブ」
の延長線のドラマの虚構を構築しようとした。
心の闇を幾層に重ねることで複雑で捉えきれない人間の欲望を
探ろうとした内なる帝国。そこに辿り着く苦しい旅を長々と同行する
ことに堪えられるか、それによってリンチファンでも評価が分かれる。
 ポーランドの冬の町での娼婦と殺人事件の話と不思議なウサギ人間
のコメディ劇場をテレビで見ている若い女とローラ・ダーンの新しい
映画の主役を演じている現実の女の話と大きく3つのエンパイア・世界
がクロスして絡みあいながら映画は進んでいく。
 引っ越してきたばかりの老婆が挨拶に女優ローラの豪邸に訪ねて
くる導入部から明日あのソファにあなたは座っていると予言めいた
ことが次のカットで現実になり、新しい映画の主役を射止めた報せ
をそのソファで電話を通して聞く展開と。スタジオでリハーサルを
していてセットの影で誰かがいると相手役の男優が追いかけるが
汚れた窓ガラスの向こうで見失い、これが後半ローラがポーランド
編の夢から逃れてきたきれいな部屋にはいると、その窓向こうで
スタジオでリハーサル中人の気配を感じてさっきの自分たちの
シーンとつながっているという場面の予知を裏の面からつなげる
ことによるシナリオ構成でハリウッドの今度の映画が実はリメイク
で昔撮影中に惨たらしい殺人事件があり、完成しなかった映画
の焼き直しだという暗喩を示していく。
 そしてこれが「マルホランド・ドライブ」がハリウッド・スターに
なれなかった女優たちの埋もれた裏の顔という暗い夢(劇中で
はBlue Tomorrowという映画のタイトルになっていた)と
つくられいる劇中映画がポーランドの娼婦の館の暗い夢の話
とが重なって描かれている。
 ここまで語ってきて今度のリンチの映画が、いままでのように
ワクワクあるいはゾクゾクする刺激的な映画になっているか
といえば、疑問である。
リンチの中でハリウッドネタに怪しく怪奇なカットをつないで
ツイン・ピークスのようにハラハラドキドキ展開しようとして
結局まとまりがつかないままだったような気がする。
リンチの迷宮は、もっと丹念に計算されていたと思う。
それがめくるめく中で継ぎ接ぎになったように思えてならない。
それともう一つ。この長い映画のマイナス要因が全編ビデオ
映像だということ。SonyのDSR-PD150という取材用のカメラ
で撮影したそうだが、不鮮明で夢のような映像をねらった
としても見づらい。リンチマジックの一つには、ブルー・
ベルベットのバラやワイルド・アット・ハートの青空のような
カラー映像の鮮やかさだったと思うが、薄暗い部屋や廊下の
影の部分に何かがいる恐怖をこの不鮮明なビデオ映像で
見せようというのは、わかるが全編では疲れる。
しかも3時間も付き合わされる者としては。
 夢の部屋から現実の部屋へリンチは、ドアを介して、
異空間へ誘う。よく見るといつもドアを入ると次の話の
世界へ飛び、あるいはそのドアの向こうに誰か闇の帝王が
いる。人間の潜在的に意識下に潜む殺戮とセックスの闇の
力を映像として提示しようとするリンチの意図は、相変わらず
健在だが、連続ドラマではなく一篇の映画としてはもっと
整理が必要だったと思えてしまった。
 もっとも娼婦たちがロコモーションを踊るところは、音楽通
としてリンチらしくて面白かったが・・・・
しかしプロデューサーにローラ・ダーン入っていたが、ビデオ
で撮影したのは、お金が集まらなかったからだったなんて
ことはないよね。たぶん・・・
by stgenya | 2007-09-30 20:15 | 映画・ドラマ
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