ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

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「There Will be Blood」脚本・監督ポール・トーマス・アンダーソン
原作アプトン・シンクレア"OIL"。美術ジャック・フィスク。
出演ダニエル・デイ=ルイス、ポール・ダノ、ケビィン・J・オコナー
 三時間近い長編だが、まったく無駄がなく息を詰めて観た。
なんだろう。この重厚感。そして巨大な壁画の現物を見ている
ようなリアル感。アメリカの20世紀初頭を生き抜いた石油に
取り憑かれた男の話である。
 それをあの「ギャング・オブ・ニューヨーク」のダニエル・デイ
ルイスが演じている。というかなりきっている。
はじめに石油を採掘する労働の一部始終を見せる。かなり丁寧に
描いていくことでその後のカルフォルニアでの大油田を個人資本
で試掘しパイプラインを敷くまでの行程がよくわかる仕組みにな
っている。西部に石油で一山当てて大金持ちになった男ダニエル。
その一代記を静かにそして冷徹に追っていく。
子供が石油の吹き上げで聴覚をなくす不幸や腹違いの兄弟が出て
きたり、何より新興教会の若い怪しい神父との確執などで主人公
が徐々にその冷徹で鬼のような本性を現してくる。
ここの転の部分がうまい。いつの間にかこの男の身のうちに入っ
てしまって、ひどい男だ、金と欲に取り憑かれた悪魔のような
成り上がりだ、と思いながらも激しい憎悪がおこらないのだ。
役者がうまいからか、運びが流麗だからか、つい惹き付けられて
しまう。これは、ブロットと話の構成に大きなしっかりとした
柱があるからだ。ダニエルは、ほとんど自分の生い立ちを語らない。
かろうじて連れ歩いている男の子は、母親が産んですぐ病気で
死んだ(ここはラストにどんでん返し)ということと、腹違いの
兄弟に育った家が居づらくて飛び出た、立派な家の調度がまた
ほしいと言ったりするだけ(ここも凄まじいどんでん返しがある)。
 つまりテレビドラマや日本の今の映画のようにすぐつらい過去
の生い立ちをベラベラしゃべってこんな人間にしたのは、誰だ
的なシナリオになっていない。ダニエルは、自分の信念、いや
もっと言えば神の見えない力強い手で行動している。
何も語らないがおそらく欲に取り憑かれる人間になるにはそれ
なりのつらい過去があったのだろうと推測させる顔をしている
のだ。それは、顔を単にしているだけでなくその悲喜劇の男
そのものになっている。
 だから最後にフィニッシュっていうセリフで終わったときで
もダニエルを全否定できない。血を見るぞ!そう叫ぶ悪魔。
この映画の本題は、ここにある。正義をかざす偽善者と悪魔
を装う本音野郎。この対立軸が大きくあるからわれわれは
この映画を最後まで観てしまう。自由や平等や平和を題目に
金を儲けている奴と仕組み。実はこれらこそ悪魔の化身では
ないのか。実利と現実を見抜いている悪党のオレの方が
マシではないか。クラシックが流れるタイトルバックの間
そんなことをダニエル・デイ・ルイスが囁いているように
聞こえて仕方なかった。そしてロバート・アルトマンに捧ぐ
というクレジットがエンドロールで出る。
私はむしろこの映画はキューブリックに近いものを感じた。
音楽の不協和音が「2001年ー」の猿の群れのときに使わ
れた音楽に似ていたのもあるが、画面の両端に人物を大きく
配置したりロングと手持ち移動のショットの当てハメ方が
キューブリック的だった。
シネスコの特に子ともが事故にあって担ぎ込まれるときに
右片隅の煙突から黒い不気味な煙が出ているのも象徴的な
カットだった。
 この重厚な映画が東京一館で先行上映でしかやっていない
ことにまずどうにかしてほしいと思う。マスコミが騒いでいま
上映館が増えちゃった(原一男の言う通り)内容のわからない
映画があるくらいならもっと時間に怖じ気づかず増やしてほしい。
特に日本の役者はみんな観るべき映画だ。
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by stgenya | 2008-05-07 21:17 | 映画・ドラマ
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