「アフタースクール」脚本・監督内田けんじ、アメリカンビスタ版 出演大泉洋、佐々木蔵之介、堺雅人、常磐貴子、田畑智子、他 前作から4年ほど経っているか、新人監督としては長かった。 でも丁寧にシナリオをつくっていただけあってうまく出来ている。 こういうミステリー・パズルスタイルの映画の才能が日本の若い 監督にあるということに深く感心する。 映画監督にとって大事なことは自分のブランドを確立すること。 それは、3本出来のいいヒット作をつづけてつくることで一年に 1回しか映画を観ない人でもああ、あの映画の監督ね。と周知さ れるようになり、伊丹さんやスピルバーグみたいに新作をつくる 度に観客が集まり、その新作のテーマが社会現象になることだ ってある。この内田監督は、苦しいだろうが題材を見つけて 自分のブランドをつくっていける位置にこの映画で来た。 だからこの才能を伸ばしていってほしい。 さて「アフタースクール」。ニ転三転のだましの映画である。 映画の中盤に来て、少し停滞する。その次の瞬間からラストに かけて登場人物の一人一人とそれぞれの設定までも一枚一枚カード をめくるように見事にどんでん返しがあり、それこそエンドタイ トルの最後の最後まで席を立てない。 劇場では、その次々にひっくり返る絵解きにため息や苦笑がおこ っていた。映画のしあわせな瞬間である。 特に映画のファースト・カットの中学校の主人公の少女と少年の ラブレターを渡す初恋の場面の設定がひっくり返されるとこは、 うまいとしか言いようがない。 いまここでストーリーを言ってしまってこの映画の面白さが本当 になくなってしまうので書かないが、予備知識などなく観た方が 絶対にこの映画はいい。 ただはじめの妊娠した常磐貴子と堺雅人の新婚夫婦の部屋に父親 らしき山本圭の存在があとでなるほどという設定になるのだが そういえば見終わってから考えると人物の初登場のカットとして ずいぶんルーズな撮り方をしていることに気付く。また2回目に でてくる夫の堺が一日たっても帰ってこない部屋の常磐と同級生 の大泉とのシークェンスでふたりの会話の切り返しカットの奥に 山本圭が座ってしゃべる件は特におかしなカット割りでどうした のか素人ぽっいなと想っていたら、ここもラストを観ると納得 する。普通妊娠した娘の夫が家に帰ってこないという場面で 友人の大泉が心配して話しているのに父親の山本がいないみた いな話ぶりをしていて実はいたというカットつなぎでその父親 も焦らず呑気にしている。あれ? と思う。 見返すとこんな変なカットがいくつもある。 それがわざと計算されたぎりぎりの編集だったのだろう。 またこの映画のもうひとつの大きな柱は、中学校教師の大泉 と探偵の佐々木の葛藤だ。学校の中だけで生きている奴に世の 中の何がわかると佐々木蔵之介が大泉に吐き捨てるセリフと これ対応してラストで立場が逆転した佐々木に大泉洋がかける 言葉に゜学校なんて関係ない。世の中が悪いとか言っている奴 は自分から逃げているに過ぎない。’みたいなことを言う場面 がある。この映画で一番決まるセリフだ。 大泉にしても一番というか、見ているかぎりでの大泉洋の役者 としての大見栄というか、一番かっこよく見えた瞬間だった。 地味だがいいキャスティングだった。 まあ、いいことばかり言ってきたので気になった点をあげれ ば撮影が弱かった。何だろう、この手の映画の場合、特に今回 みたいなミステリー・パズルスタイルの展開ではもっとシャープ で計算高いアングルが必要だったと思った。 できるだけノーマルな転びの場面は、普通の教師が友人の失踪 に巻き込まれていくのにサイズやアングルは少しづつでも変わっ ていっても良かったように思った。昔だったら鈴木英夫や岡本 喜八やジョージ・ロイ・ヒルのような映像に拘った絵つくりが 練られたら間違いなくすごい映画になっていた。 内田監督の課題だと思う。でもいまこの彼の才能を惜しまない 投資をしてくれるプロデューサーがほしい。 次回作に何年も待たせるようではダメだ。ちゃんと本作りから 金をつぎ込んでどんどん撮らせないといけない。 彼の書く映画台本には、莫大な黄金が埋まっているのだから。 ともかくこの才能を祝福しよう。 そして次作がたのしみな監督である。
by stgenya
| 2008-05-25 04:16
| 映画・ドラマ
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