山のあなた 徳市の恋

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「山のあなた 徳市の恋」監督石井克人、原作清水宏
出演草薙剛、加瀬亮、マイコ、堤真一、広田亮平、洞口依子
 昭和13年の清水宏監督の「按摩と女」(松竹)のリメイク作品。
フジの大多プロデューサーが次ぎ何すると言った答えに石井監督
がこの戦前の66分の中編をあげて始まった企画だそうだ。
極力オリジナルのカットをそのまま同じように撮っている珍しい
オマージュ映画である。
 この映画を観て何がやりたかったか、あるいはなぜこれをリメ
イクしたかったか、それは、雨の川の中に立つ東京から来た縞の
着物の女の姿を撮りたかった。ふうっと温泉街で知り合い、その
影の部分に惹かれほのかな恋をして、すれ違った出会いと別れの
象徴としてのあの番傘の若い女の瑞々しい姿を撮りたかった。
そのためには、できるだけ手垢のついていない女優が必要だった。
そしてマイコという映画初出演の新人を使った。
たぶんこの配役に関して制作側が何を言っても石井監督は、絶対
に譲れなかったのだろう。
なぜならマイコがこの映画の中心点になってキラキラと輝いてい
るから。はじめに按摩としてマイコ扮するなぞの湯治客三千穂と
接してから、2回目に堤演じる子持ちの旦那との葛藤でゆれてい
るときに徳市が街ですれ違うときのすばらしい映像は、マイコが
急に変に極めて異常な執念とでも言うような不思議な画調で着物
姿を美しく撮っている。ここと雨の川の中の先ほどの番傘のシーン
とは絵のようだ。なんて美しいのだろうと思わざるを得ない。
このためにこそ「徳市の恋」と副題をつけた。
ハーフなのにこのマイコという女優は、和服の似合う希に見る艶
やかしさである。これは大きな発見だった。
 話は、ある温泉街に按摩の二人がたどり着き、湯治客の東京か
ら来た女や子連れの旦那衆などと会う。そんな中でお金が盗まれ
る事件が宿々で起きる。ひとり客の若い女(マイコ)がどうも情況
から怪しいと徳市は思う。そしてなんとかマイコを逃がしてやろ
うと思うようになる。それはもう恋をしたことではないか・・・
峠道勘の鋭い徳市と福市のふたりの按摩が足音で後から来る人数
を当てたり、健脚を競って旧制高校生や女学生と張り合ったりと
遊びのシーンが前半面白く描かれている。
この辺のテイストは、「茶の味」石井克人ごのみでユーモラスだ。
ここも実は戦前の映画にある。「百万両の壷」や「忠治旅日記」
などの戦前の名作には、随分自由で遊びのシーンが結構あって
若々しい。むしろ今の映画の方がそんな遊びや即興のユーモアを
忘れている。石井監督のやりたかったことのひとつにこの自由な
雰囲気があったのではないだろうか。
小品だがバカに出来ない作品である。
惜しむらくは、草薙君が徐々に三千穂に惹かれていくココロの細
かい変化が描けていたらもっとよかったと思う。
それにしてもカバー映画というこの考え方は、面白い。音楽でも
昔のいい曲をカバーで歌ってヒットさせている。映画であっても
いい。そのことで作家の新しい展開が開ければいいのではないだ
ろうか。この方法で岩井俊二に甦ってもらいたい気がした。
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by stgenya | 2008-06-08 19:55 | 映画・ドラマ
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