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おくりびと

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「おくりびと」 脚本小山薫堂、監督滝田洋二郎。
 出演本木雅弘、山崎 努、広末涼子、吉行和子、笹野高史他。
 製作セディックインターナショナル。配給松竹。
渋谷シネパレスでは、8割かたの客の入り。全国的には100万人
を突破したらしい。モントリオール映画祭でグランプリ受賞。
 いい映画で尻上がりに評判がいい。
本木さんが納棺師をやりたいというのが始まりで企画が出来て
放送作家の小山薫堂に回って来て、六稿ほど書き直して滝田
監督の撮影となった。
 モチーフが死を扱う映画ではじめて具体的に知る納棺師という
仕事で本木君がまじめに役にとりくみ、山崎努が厚みのある演技
をしている。いい映画になった。
主人公をチェロ弾きにしたのも正解だと思う。
しかしこの映画の中盤から大事なへそが隠されたまま進んで
いき、ユーモアのあるシーンやほろりとする場面もあったが、
どうも不完全燃焼のまま終ってしまった。
なぜこの映画が伊丹さんの「お葬式」のように行かなかったか。
うまくつくっているにもかかわらず、どうして心が通らなかったか。
それは、主人公がチェロ奏者をリストラされて故郷で転職する
という話でたまたまはじめた納棺師という仕事が主人公の心の
中でどう天職だと認識されたかが描ききれていないからだと思う。
納棺師の仕事をしているのが、同級生や妻にバレて仲間の中で
噂になっているという急展開で妻が実家に帰ってしまう。
ここの危機を映画はどう切り抜けるのか、それがたのしみで
ずっと追いかけていたが決定打が出てこないで主人公の父との
別れを河原の石に託して自分史の方へ決着を結んでしまった。
主人公と父の石の話は、よくできているがこれは別に納棺師で
なくても成立する話である。
納棺師という仕事に偏見をもたれ、自分も金のためだけでやって
いたのにいつの間にか死を演出するこの仕事にのめり込んで
幼くしていなくなった父との心の確執も最後に解けていくという
流れだったと思うが、その本木と納棺師という仕事という対決が
明確でないのだ。
 おかしいなと思ってシナリオを読んでみると、シナリオの序破急
のセオリーで妻が出ていった急の後に山崎努の社長と納棺師の
出会いがあって、あとは、チェロ演奏でさまざまな死と看取りとの
事例をダイジェストにして、妻が妊娠したといって帰ってくる件に
なり、忌み嫌った同級生の銭湯の母親の納棺をするところで
解決させている。
つまりここは、「砂の器」のあの親子の放浪をオーケストラの
演奏で辛い四季の旅を描いたのと同じような書かれ方をして
いる。しかしこれがクライマックスの前で効果がうまく利いてい
ない。なぜか。
それは、主人公の本木がチェロ奏者から納棺師への心の転換
の核心のシークェンスが描けていないからでしかない。
何が本木の心を動かしたか。
山崎の褒美の白子だけでは弱いのではないか。
もうひとつ本木自身に直にかかるモノがあって、納棺師の季節
のダイジェストになれば、うまく嵌ったと思う。
東北の風景や風土と死という誰もが平等に通るテーマから自分
の都会生活がどう見直されたか、とってもいいモチーフなのに
残念だ。それから出演者が押し並べていいキャスティングだ
ったのに広末だけは、芝居が出来ていなかった。
夫がリストラされて田舎に帰るという時、転職した仕事が納棺師
だと知った時、女としてどう思ったのか、どう揺れ動いたのか、
よくわからなかった。いつまでアイドル芝居をするのだろうか。
田中麗奈にもいえるけどここが脱皮のいいチャンスだったのに。
まあ、でもよく一生懸命つくっている真面目な映画になっている
のは、変わらないので是非劇場へ行かれて自分で中身を感じ
てほしい映画です。
by stgenya | 2008-10-01 16:12 | 映画・ドラマ
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