カテゴリ:映画・ドラマ( 161 )

君の名は。

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「君の名は。」原作・脚本・編集・監督 新海誠 制作Comixwave
配給 東宝。28日目にて興収100億円突破。
 新海監督は、短編・中編のモノローグで語る私小説的な作風が特徴だった
けど今回は、練りに練ったエンターテイメント作品にして成功した。
 つまり予告で出て来る「転校生」的な内容の映画かと思っていたところに
話の中盤から大きく壮大な物語を紡いで行く。それも入れ替わりという
モチーフをラストまで生かして。
 それは、歩道橋で三葉と瀧がケイタイがつながらなくなった時点から一気に
展開する。瀧は、三葉に会いに行く。そして三葉の住んでいる飛騨に衝撃の
事実を知る。ここで時間軸がズレていたことが提示され、それを取り戻す
新たな物語に転換する。それも二転三転と。
 ここがいままでの新海作品と違う所だ。この激しい変化を107分に納めた
ために、あれ、あれはどうなっているんだろうと観客は頭の中で整理して
後半のカット一つ、セリフひとつを再吟味しようとしてもう一度見たくなる。
失われた時間、距離、記憶の新海三要素を今までと逆転してポジティブに
取り戻そうとして物語を書き上げたことが結果的にうまくいった。
これを可能にしたのは、最初に三葉の町と家族と神社のしきたりを20分
ぐらい長く見せていたことと入れ替わる二人が戻るとその記憶がなくなる
という決定的なカセを観客に印象づけたこととが大きい。
つまりズレた時間とふたりの距離と失った記憶をご神体に納めた口かみ酒
を瀧が飲むことでワープして、喪失の穴を埋めようと三葉になった瀧が
活躍し、ある自然災害を克服し、希望を取り戻すというドラマになった。
もちろん監督本人も言っている通り、3.11がここにかかわって来る。
あれだけスキな人の名前も忘れてしまう入れ替わり。
会いたいのに会えない切なさ。
それが時間が5年飛んで再会し、ラストの「君の名は?」となる上手さ。
森田芳光にしても相米しても岩井俊二にしても代表作はひとつあればいい。
それからするとこの作品は、新海誠の明らかに代表作になる。
思えばだった一人でCGアニメを自主制作して始った若者が100億の大作
を手がけてしまう時代なのだ。師弟もなくプロの現場経験もなくできて
しまう。これは、大きなことだ。
この夏、この映画に熱中した少年少女の中に第二の新海誠が、宮崎駿が
出て来ないとこも限らない。
そして東宝が最初15億いってくれれば御の字だった「君の名は。」が
ここまで大化けしたのにびっくりしているだろう。
夏休みの最後8/26公開、しかも渋谷や池袋、有楽町などメインでTOHOの小屋
からはじき出されて、キャパの少ない劇場になってしまった。
でもこれが逆に新海にはプラスになった。
劇場が小さいから連日超満員。これがニュースに。そして後半の町を
救うシークウェンスが端折った(ここは、もっとうまい編集があったと
思う)ために10代20代がもう一度見ないとわからないとリピーターに
なったこと。あらゆることが幸運に動いた。
次が大変だろうが新海監督には、是非頑張ってもらいたい。
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by stgenya | 2016-09-26 01:50 | 映画・ドラマ

スターをつくるのは、オリジナルストーリーだ。


井上梅次監督へのインタビューで
石原裕次郎を日活の江守さんから売り出すのには、
どうするのかと問われて、
配役では、脇を固めてから
まずストーリーだと言われる。
それもオリジナルストーリーだという。
裕次郎を最初文芸作品に出して、下地をつくってから
オリジナルストーリーで見せ場をつくり、
娯楽作を生み出す。
スターを際立たせるようなストーリーにしようとすると
自然とオリジナルになる。
大好きな井上梅次監督の貴重な話である。
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by stgenya | 2015-07-18 03:19 | 映画・ドラマ

映画評論家がいなくなった

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とある有名なヒット作のプロデューサーと話していて、マスコミ試写に来ない
映画ライターがいっぱいいて、DVDを送る習慣がいつのまにか出来て、
そのDVDも返さない。
もうDVDを送るのやめようと思っているとこぼされた。
だいたい映画ライターなんて言葉は、いつごろから出来たのだろう。
映画評論家と昔はいって、著作もあって言う事に重みがあった。
松田政男や佐藤じゅうしんみたいに喧嘩してまで論をはる人もいた。
それが今テレビ雑誌の芸能コーナーで映画を紹介する人を映画ライターと
言う。
評論家は、詳しい映画の知識がいるが、それほどなくてもできるということか。
DVDで映画を見る。
キネ旬や新聞の映画欄の映画記事を書いているライターも
そういうことが多くなった。配給宣伝から断れないとそれですます。
 試写室が仕事場だと言った古い批評家もいた。
忙しいからそれも仕方ないのかもしれないが、映画は、
やはり映写して見てもらいたい気がする。
途中で電話がかかる、家人や宅配の声が聞こえる。
そんな環境で出来立ての映画を批評する。
それを読んで映画館に足を運ぶ一般の人は、
映画館でみんなと見ている。
キネ旬のベストテンだって、100本以上の映画が対象になるのに
投票している映画評論家は、それぞれが2,30本しか見ていない。
全部見ている人が何人いるのだろう。
それで順位を決めるのって統計学的にもおかしいね。
この二十年、日本映画がよくなっているのだろうか。
どんな小さな作品も昔のキネ旬の村井さんみたいに足を
運んで評価する人がいた。
いろんな映画やシナリオのコンクールがあるけど、
突出したライターや監督が出てこない。
芥川賞などもそうだけど、それって選ぶ方にも責任があると思う。
あるいは、選んだ作品や作家がその後活躍せず、
何年もそういう状態がつづく。
それは、選ぶ評論家の能力も問われることにならないのだろうか。
コンクールで意見が白熱して、審査員が降りるという
真剣さがかつてあった。
評論って、それでめしを食うわけだからそんな真剣勝負が
もっとあってほしいと思う。
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by stgenya | 2015-06-23 05:09 | 映画・ドラマ

道しるべ予告編



人の生き方も考え方も十人十色。
丁か半か・・・
見えない道しるべを選んで進む道。
どっちに行っても
恨みっこなし。
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by stgenya | 2015-04-16 03:33 | 映画・ドラマ

大瀧詠一forever


大瀧詠一が亡くなって一年以上が経って
このところ毎日彼の過去の業績を聞いている。
音楽のみならず、映画、スポーツ、コケに至るまで
凝って理論化し追求する真面目な姿と
はっぴいえんどの旧メンバーや山下達郎や坂崎幸之助など
と語るザックバランな自由人の福生のご隠居としての姿
など浮かんで来て、とても不思議な人だったと思うと
同時に大切な人を亡くしてしまったんだなと胸さける。
大瀧さんには、是非喜劇映画の音楽をやって頂きたかった。
それが残念でならない。
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by stgenya | 2015-03-14 01:30 | 映画・ドラマ

新作映画「道しるべ」

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映画「道しるべ」が完成し、6月角川シネマにて公開が決まりました。
 振り込め詐欺に遭う園まりさん扮する老婦人と詐欺の手先の
ミフネ・トシロー役の仁科貴さんと園さんの恋人・浜畑賢吉さんに
たまたま同じ名前・ミフネトシローだった金谷ヒデユキさんが
じぐざぐに絡み合う喜劇映画。
 五年前に企画が出た時は、オレオレ詐欺だった。
それが今では、特殊詐欺とまで形態がころころ変わっているが、
詐欺の中身は、同じ。
そしてその被害がますます増大している。
これは、映画にしないとたいへんだと脚本書きが始まったのが
ちょうど一年前。
やっと映画にたどりついて、ベストなキャスティングを得て
発表できるまでになった。
映画の企画は、自然と実になる。
大事なことは、その映画を信じること。
その一言に尽きます。
誰が何と言おうと、一週間寝て
その映画の夢が覚めず、ますます膨らむ場合
自分を信じること。
つくづくそう思います。
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by stgenya | 2015-01-22 10:48 | 映画・ドラマ

そこのみにて光輝く

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「そこのみにて光輝く」脚本高田亮、監督呉美保、制作ウィルコ、配給東京テアトル
 出演綾野剛、池脇千鶴、菅田将暉、高橋和也、火野正平他。原作佐藤泰志。
 公開6週目の新宿テアトル。半分の入り。
なかなかつややかで哀しく美しい映画だった。
何より池脇千鶴がいい。彼女のキャリアからこれだけ女を演じたものは、
見たことが無い。女優が自分の中の何かとピーンと触れ合った時に本能的に
体現する僥倖の瞬間を見せてもらったように感じた。
太地喜和子などとイメージが重なる。そして綾野剛もいい。「シャニダール
の花」の時もそうだったが、あの、前髪で隠れた細いナイフのような目は、
今回も有効な演技道具となっていた。
 そしてこの映画を観ていて、柳町光男の「さらば愛しき大地」を思い出
していた。あの、色褪せない、日本映画の珠玉のセックスシーンの
秋吉久美子の妖しさを思い浮かべた。池脇千鶴のちょっと太めの肉体から
発する切羽詰まった輝きが挿入の時の喘ぐため息に後光のように
反映していた。
この女流監督のこの原作を映画化するに当たって、肉体的感性を主軸に
置いたことは、この映画の完成度に貢献し、成功したと思う。
それは、この映画の中で映画的なつなぎだなあと思った箇所があり、
そこに肉体主軸の策略が見えた。どこかというと主人公達夫と千夏が
初めて結ばれるシーン。ふたりがキスをして絡み出したシーンの次で
男の尻丸見えでセックスが始まっている。千夏は、喘ぎながらも
「もういいでしょ」と逃げるシークゥンス。
ええ?と思うと、それは、達夫とのセックスではなく、愛人の中島
とのセックスに入れ替わっている。つなぎとしては、映画「卒業」で
ミセスロビンソンとのセックスシーンがいつの間にかプールの
浮きボードに乗るシーンと入れ替わったとの編集的には、
同じなのだが、ここで愛を感じた達夫とのセックスの次に
愛を感じていない中島とのセックスへ移行して、
初めて中島を拒絶する。
好きな男ができたら、女は、別の男を本気で受け入れられない
というメッセージであるように編集している。これは、
女流監督の力だと思う。
シナリオでは、達夫とも中島ともキスするという行為でしか書
かれていない。そこをセックスシーンに撮影では入れ替えている。
監督の力量をここに感じる。
 それからこの不遇な作家佐藤泰志の作品の映画化が、デフレの
失われた20年の若者の群像の現代にぴったりハマっている。
限られた職しかなく、その牌のために身を切り刻んでいる今の
若者の姿が見事に表している。
 まるで行き場がなく、泥沼の底で魚が交尾している姿にこの
二人の男女が丸写しで久々に骨太で秀逸な映画だと思った。
中上健次の原作映画化と通じるものがある。路地と泥沼。
「千年の愉楽」もこのキャストでやれば、違ったかなと余計な
ことをつい思ってしまう。
6週でこれだけ入っていれば、ロングランだ。
いや、それにしても池脇は、徒者ではないよ。


 
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by stgenya | 2014-06-02 01:57 | 映画・ドラマ

新作への最初の道標

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今日新しい映画のキャストが決まり、顔合わせがあった。
企画自体は、四年前からあったものをこの三月にやっと脚本化できた。
映画は、基本的にエンターテイメントであると思っている。
映画が、映画館の中のお客と密接につながっていないと
それは、理論のための映画である。
私は、それを否定はしないが自分のつくるものは、少なくとも
映画創始期の「見せ物」的な要素を加味したい。
 今回の映画は、コメディである。
低予算で映画をつくるために必要な第一条件は、本。
シナリオが面白くないとどんなに頑張っても息切れしてしまう。
構成もセリフもそしてテーマも今の日本を反映して練られたもので
ある必要がある。
そこは、苦しんだ分一定の水準になったと思っている。
そして今回は、幸運なキャスティングができた。
多分大きな予算をかけてもこれだけのキャストは、変わらない。
園さんのお婆ちゃん役と浜畑さんの恋人役。
金谷・仁科両氏のダブル主役。
コマーシャルとテレビ局や広告代理店のからんだ映画づくりは
もう行き詰まっている。
映画を作品を愛している人たちがやっていると時々思えないものが
大量に流れてくる。
自分たちが本当につくりたいものを観てみたい役者さんと
ちゃんと作ることがそれらに風穴を開ける道だと思う。
夏の撮影に向けて、このキャストの方たちとスクラムくみたい。
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by stgenya | 2014-05-25 03:30 | 映画・ドラマ

純情の都

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「純情の都」(1933年PCL)
原作島村龍三、脚本松崎啓次、監督木村荘十二、
出演竹久千恵子、千葉早智子、堤真佐子、大川平八郎、
徳川夢声、古川緑波、藤原釜足、岸井明、丸山定夫・・
 まずこの映画が80年前のトーキー初期の映画である。
しかしこの映画のファーストシーンからスタイリッシュで極めて
無駄がなく、都市生活者の青春群像といい、今見ても
斬新でポップであり、疾風のごとく男と女と若さと未熟さとを
ものすごい速さで駆け抜けて描いている。
 いま観ても切実でかっこよく粋で少しも古びていない。
この映画が現在残っていて観られることに感謝したい。
いかに映画の初期の人たちの志が高かったか、敬服する。
話が悲劇的にあっという間に終わることに違和感を感じる
ひとがあるかもしれないけど1970年代のアメリカンニュー
シネマを見ればみんな悲劇的なラストになっている。
それは、時代のペシミシズムと思えば映画としての質に
影響を与えない。
 話は、和風美人の千葉早智子とモガで男言葉を話す美女
竹久千恵子のルームシェアの現代的な生活に職場の上司
や同僚の男の言い寄りが波風をたてて、藤原釜足や堤など
の遊び仲間と新店舗でのショーの成功と並行していたずらな
すれ違いから千葉が貞操を奪われるという青春の無軌道と
現実を描いている。
千葉は、上司の徳川夢声にいう。
「あたしたち、同性愛じゃないのよ」
 これは、言ってみれば永遠のテーマでもあり、今でも何回
となく繰りかえし描かれる青春映画の王道でもある。
「勝手にしやがれ」「突然炎のごとく」「ファイブ・イージー・
ピーセス」「八月の濡れた砂」「セックス&シテイ」など・・
 そして驚くのが当時のフランス映画影響を受けてか、都会
の夜明けから夜更けまでの帝都の東京の描写がどこまでも
洋風でビルにマンションに紅茶にパンの朝食、若い登場人物
は、みんなモガモボ。かっこいい。
まるでルノワールやルネクレールの映画を見ているようで
今これだけ日本でスタイリッシュな東京を撮れる監督もカメラ
マンも想像つかない。
 それからこの島村龍三の原作は、「恋愛都市東京」といい
新宿ムーランルージュで同じ竹久千恵子で舞台化されたもの
だった。明治製菓店でのレビューダンスもムーランそのもので
ムーランのテイストが色濃く記録されて貴重である。
そのうえこれで映画デビューする竹久、颯爽とした徳川夢声
やロッパを見ることができる重要な作品でもある。
映画をめざす若い人は、必見の一本といえよう。
それにしてもこの映画をFCで原作者でムーラン初代文芸部長
だった島村龍三の娘さんとそのお孫さんたちと観た。
いや、今観ても新しいですね。というと娘さんは、80年前の父親
のキラキラした青春を感じ、25年前に亡くなった父への再会と
感動を胸に涙ぐまれていた。
作家は、小説であれ、映画であれ、永遠に情熱の爪痕を世に残す。
映画は、美も俗も切り取って100,200年と後世の人にみせてくれる。
「純情の都」をシネスウイッチ銀座当たりで「突然炎のごとく」と二本立て
でロードショーしてくれないものか。
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by stgenya | 2013-11-25 16:20 | 映画・ドラマ

この天の虹

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「この天の虹」(昭和33年松竹)脚本監督・木下恵介、出演高橋貞二
 久我美子、田中絹代、笠智衆、川津祐介、田村高広、大木実
 たまたま観たこの映画にびっくりしてしまった。
木下恵介のフィルモグラフィーにこんな映画があったことに
驚いた。木下恵介は、實は映画の可能性に挑んでいろいろな
タイプの映画を作った。
 この映画は、ドキュメント色があり、またむしろ八幡製鉄
所のプロパガンダのスタイルになっている。よく売れっ子の
エースがこんな映画を撮ったなあと思った。
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この古い映画を今どうして取り上げたかというと自分の育った
街だったからだった。八幡製鉄所は、1901年日本最初の官営
製鉄所で街全体が企業城下町で小学校のクラスの8割方が八幡
製鉄所に関わっていた。そして職員のために作られた五階建て
の当時最先端の鉄筋ひし形の穴生アパートは、私の町で同級生
や初恋の娘がいたりして、小学校から高校までよく通って、
遊んだ場所だったので個人的に懐かしく興味を惹かれた。
 
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 話は、製鉄所の全体の工程や施設の紹介しながら、独身寮に
住む作業員の高橋貞二が、田中絹代と笠智衆に間に入ってもら
って秘書課の久我美子と見合いをしようとしていたが、久我は
設計課に勤めるエリートの田村高広に惹かれていて、高橋貞二
の求愛が周囲の努力も虚しく実乗らないで終わるというもの。
 田中絹代のいる桃園アパートは、高校の同級生がいた時代
のものと変わっていなかったし、工場の中は、山手線の中と
同じぐらいの広さで溶鉱炉から圧延工場、洞海湾の積み出し
施設までどこに行くにも循環バスで移する規模の大きさも今と
同じだった。高校生のときに実際に高炉の建設のバイトをし
てバス定期を買って夏休みの一ヶ月働いた経験もある。
 だから今回は、映画の話というより自分史についてつい
考えさせられた。起業祭といって八幡製鉄所の誕生日を北九州
全体で祝い、小中学校が休みになり、町にサーカスや芝居小屋
が出て数日間カーニバル状態だった。私の家は、製鉄では
なかったが友だちのアパートや一軒家に住む優等生など
と交わって、この映画に出てくる職工と技術者との差は、
確かにあったことを知っていた。木下恵介は、この結婚相手の
問題を極めて現実的な描き方をした。
 ただ今回のこの木下映画の特徴は、この映画がデビュー
になる若い川津祐介を狂言回しのように使い、尊敬する高橋
貞二の恋の手助けを最後までする姿にある種のお姉キャラ的
な描き方をしているところにあって、兄弟映画の要素がある。
又音楽を現実のコンサートや水上ダンスの曲にのせて、物語
の人物の会話による進行を描いていて手際よい。
さすが天才的である。戦前に軍国映画も撮ったけど木下流
人間ドラマにしていたから、お手の物だったかもしれない。
 しかし自分の育ったルーツに田中絹代、笠智衆、久我美子
などが来ていたとは、驚きと同時に光栄である。
この日本最大の製鉄所には、筑豊から石炭を運ぶために
堀川を使って高倉健の父親の船が活躍したし、若松では
火野葦平が小説を書き、また実際に製鉄所の文芸部には
「無法松の一生」を書いた岩下俊作がいたし、その後輩
には佐木隆三も昼間作業服で働き、夜小説を書いた。
 この映画では、定年退職した老後が心配だというモチ
ーフが出て来るが、私たちの中学生時代=ちょうど新日鉄
に合併した頃には、小学校卒の職工でも50才で退職する
ときには一軒家を会社が建ててくれたりして終身雇用が
しっかりしていた。
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 この「この天の虹」に出て来る夢の象徴の工場
の煙突から出る七色の煙は、学校の校歌に歌われていて
もいたが、やがて公害でその歌詞を変更する所も出て来た。
それにしてもこの異色の木下恵介の企業映画が自分の
記録として極めて貴重な記録映画になっていたことに
個人的に感謝したい。
 映画は、人の恋愛と同じで巡り逢であり、文化記録や歴史
ひいては社会学的な実証記録のツールだとつくづく思った。

 
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by stgenya | 2013-03-31 05:56 | 映画・ドラマ