<   2006年 04月 ( 1 )   > この月の画像一覧

八月のクリスマス

 韓国映画の日本リメーク版。これを三軒茶屋のたぶん東京で唯一と言っても
いいくらいの昔ながらの名画座で観た。d0068430_22363480.jpg
 客が疎らで寒々しく、固い椅子に埋もれながら昔の文芸地下を思い出しながら
観た。そんな暇つぶしのように観た久々の長崎俊一の映画にえらく感動した。
もとのものを観ていないので比較論は、まずやめて純粋に新しい邦画として
誠実につくってあるのに感心した。
 そしてこの静かな映画の成功の一番は、監督はじめこの企画者がロケ地
を富山県高岡市にしたことだと思う。
地方の(特にこの映画の場合北陸の景色がテーマにあっている)空や町並み
は、それだけで物語を語る。太平洋側はみんなどこもリトル東京になってしま
っているが山陰や日本海側は、鉄道本線が未だに単線であまり風景が壊され
ずに残っている。もっともこの映画の重要な主人公のお気に入りの高台は、
金沢までさがしてロケ地にしている苦心の跡が見られるが・・・
 たとえば大林の「転校生」や「時をかける少女」は、舞台を尾道に持って
いったことであのロマンテシィズムが成立する。田舎だとあるかなと
勘違いさせられる。ましてやお隣の国だとそんな今更というラブストーリー
がありうることとして受け止められる。純愛ものは、たえず欲されている
ものだからで、特にトレンディードラマで出しつくしたわが国の現在では。
 さてストーリーは、 余命の限られた写真屋の山崎まさよしが父から店を
譲り受けて誰にも病のことを打ち明けず淡々と写真の仕事をしている。
そこへ小学校の代用教員の若い関めぐみが現れて、ふたりの間に
淡い恋心が芽生えて、山崎は自分の病のことを黙ったまま死んでいく。
ただそれだけの話を静かにしっかりとそしてゆっくりと固定カットで撮っている。
「死国」のときは、長崎どうしんだと思ったが、今回ゆるぎない物腰でいい作品
に仕上げている。多少の説明不足やふたりのぶつかりや主人公の内面描写
が抜けているように思えるが、季節を追って日めくりのようにつないでいる
編集が反ってよかった。ひとりで仕事していつも行くお気に入りの高台で
ぼんやりとする。町は、ゆっくり動いていくが自分は静かにこの舞台から
去っていく。雨を見つめるように、雪の降る音を聞くように、
一地方の男が出会ったささやかで幸せな時間を抱えて消えていく。
 普通の人の生ってこういうものではないかな。だから心に響くのだと思う。
目の前で愛する人の死と対峙しなければならないとき、もがいてへとへと
になって自己矛盾が沸き起こるが、結果静かな別れになる。
あとは、それをただ受け止めるだけである。
 初長編がバイク事故で中断してしばらく浪人を余儀なくされ
「ロックよ静かー」で復帰し、なかなかいい作品に恵まれなかった
長崎がよくこれを選んだと思う。
このスタイルで多分文芸物になるのか、もう1本撮ってほしい。
「闇打つ心臓」の次に。
d0068430_15124854.jpg

[PR]
by stgenya | 2006-04-07 15:28 | 映画・ドラマ