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わたしは真悟


楳図かずおの「わたしは真悟」の映画化を考えて、
「ロボット」という括りで楳図さんと仕事しながら
どうしてもこの楳図さんの後期の作品が普遍的な愛の
テーマを扱っていて、映画にしたいと思って要約版を
制作した。
 今でもこの企画は、正しいと思っている。
実は、K氏に台本も書いてもらったことがあるが、
諸事情で成立せず、そのままになっている。
少年と少女の初恋の話から人間と機械という世界の
果てまでつながっていくスケールの大きなものが
この作品にはあり、ロボット技術もさることながら
親が子供を殺し、子供が親を殺すという危ういこの
21世紀の時代を映すのに必要なテーマをもった作品
だと思う。どこかで又この企画の復活をねがっている。
 また楳図さんは、変わった人のように見えて
実際話していくと極めて哲学的で常識人であった。
時代や世界を見る目に予見的なところがあって
その勘の鋭さは、非常に反射的で生まれついて
もったもので凡庸ではなかった。
映画の企画は、生き物で難しいが10年かかえても
消えないものは、何かがあるはずである。
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by stgenya | 2008-03-31 23:34 | 人物インタビュー

ノーカントリー

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「ノーカントリー」NO COUNTRY FOR OLD MEN
脚本・監督ジョエル、イーサン・コーエン兄弟。
原作コーマック・マッカーシー「血と暴力の国」。
出演トミー・リー・ジョーンズ、ハビエル・バルデム、ジョシュ
・ブローリン、ウッディ・ハレルソン、ケリー・マクドナルド。
今年のアカデミー作品賞受賞作。海外の映画祭でも評判がいい。
 観る前からラストが賛否両論とか言っていたのでどうだろう
と思って観てみた。コーエンは非常に玄人受け路線を歩いている
から少しの心配があったが、2時間2分。しっかり観られた。
 ドキュメントのように淡々としているが丁寧に練られてつく
っていて、画角や構図が無駄がなく最後まで楽しんで観ること
ができた。よかった。
はじめに西部の砂漠が映し出され、保安官に親代々からなった
が昔の爺さんたちは、銃をもってなかったという。 
一人のガスボンベをもった男を捕まえた保安官補佐のシーンへ
つながり、その男が隙を見て保安官補佐を殺す。
それがアントン・シガー(ハビエル・バルデム)という殺し屋。
まずフカンで撮ったその殺しの場面のおかっぱ男シガーの形相
が凄まじい。ここからこの映画の性格が決まった。不気味なり。
そして鹿撃ちをしていた溶接工ルウェリン・モス(ジョシュ・
ブローリン)が砂漠で数人が惨殺されているのに出会う。
そして金の入った鞄を拾う。これでこの髭の男モスは、逃げる
ことになる。この地域の保安官エド(トミー・リー・ジョーンズ)
がこのメキシコ麻薬に絡んだ惨殺事件と姿を消したモスを追って
いく。そこに金を取り戻すために組織からシガーがガスボンベ
を抱えてやってくる。
 ここで逃げる、追うの三者の追跡劇になる。
コーエンをはじめにしてアメリカ若手の映画術の新しい手法は、
初めの殺人事件から次々と起こる殺人事件の中身に寄り添わずに
行き当たりばったりの事件をカードゲームのようにスペイドが
出たら、今度はハートという風にそれで数の多い方が勝って
次へ進んでいく風にそのアイデアとスリルを映画にしている。
だからここで殺された売人やホテルマンなどの人生はどうでも
いい。むしろパズルのように三者がぶつかり、組み合わさり、
ひとつの現在の死の恐怖と隣り合わせの社会を浮き彫りにして
いく。この虚無感は、戦争をしている国。善意で自らが傷を負い
かけた善意の向側から無視される国に育ち、結局悪はなくなら
ない。というアメリカならではの空気感から来ている。
老人に住む国はないどころか、愛や夢の人間世界を歌ってきた
ハリウッド映画が今40年ぶりにカウンター・カルチャーを
受けている。ニューシネマが出てきたように不毛と乾いて滑稽
な死で終わる映画がでてきたのだ。
うまく金を手に入れたモスは、今までのジャームッシュたち
だったら、手違い間違いでうまく逃れてエンドマークだったが
コーエンは、モスもその若い妻も死に神のようなシガーの手に
ゆだねてしまうラストにした。
言ってみれば、21世紀の「イージー・ライダー」と思えば難解
じやない。ベトナムではなく911とアフガン・イラク戦争がこ
の背景にある。悲惨なお返しのない血を大量に流した国民は、
死の現実をどう受け入れるかに関心が向かうようだ。
この映画見て、ラストが気に入らないと言っている
評論家たちは、どうしたいというのだろうか。
この題材でハッピーエンドもないし、むしろ保安官のトミーの
死んだ父の夢を見たという挿話で終わっている今のスタイルは
示唆的で深い後味を残していると思う。
馬で父が松明をもって追い越して行ってしまった。
俺は、その先で父が荒野で焚き火をして待っているのを知って
いる。
こんな世の中、そのうちに親父のところへ行くよ。少しは愛や
夢を語れた親父たちの囲む焚き火の元へ。とでも言いたいのか。
渋い演劇的なセリフだ。
それとこの映画で得意なのは、シガー役のハビエルだ。あの風貌
と冷徹な殺し屋の演出は、近年にないモンスターぶりだ。
まるで死に神に近い不死身さでまるで死なないエイリアンみた
いだ。しかもガスボンベのエアガンが武器なんだから、恐怖が
倍加する。これは、コーエンは、誰でもいずれ来る死に神として
描いたのではないだろうか。
アメリカとメキシコ。生と死。愛と恐怖。貧困と裕福。そして
コインの表と裏。これらの境は、どこにあるのだろう。
まずこの逃れられない境を自覚してはじめて愛と夢がこの境界
を埋める時代がくるような気がして映画館を出た。
このコーエン兄弟の新作が成り立ったのには、シャープな映像
と存在感のある俳優たちがいたからこそと強調しておきたい。
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by stgenya | 2008-03-15 22:02 | 映画・ドラマ

明日への遺言

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「明日への遺言」脚本小泉堯史、ロジャー・バルバース。
 原作大岡昇平、監督小泉堯史、制作エース・プロダクション。
 出演:藤田まこと、ロバート・レッサー、フレッド・マックィーン。
 富司純子、蒼井優、田中好子、西村雅彦など。
 これは、戦後開かれたBC級裁判で裁かれた岡田資中将のいかに
裁判を闘ったかを丹念に追った映画である。
ほとんどが法廷シーンで貫かれている。地味だが考えさせられる
映画だった。
なぜか。ゲルニカから始まるこの映画は、実はアメリカの戦争その
ものを問うているからである。非軍事施設への無差別爆撃は、
正統な戦争行為なのか。太平洋戦争前のアメリカ自身は、その
犯罪性にむしろ抗議をしていた側だった。それが東京大空襲から
広島・長崎の原爆まで話がすすむ。爆撃機のパイロットがパラシ
ュートで名古屋で落ちて、東海地区司令官だった岡田は、略式裁
判でその捕虜の斬首を許す。
この捕虜に対する残虐性が戦争犯罪人として裁かれる。
過去に「飼育」や「私は貝になりたい」などこの辺を扱った映画が
あったが、この「明日への遺言」は、小泉さんらしく静かだが、
ブレずに、見終わってよくよく考えると激しい義憤を観客に落と
している。今アメリカが強者としてベトナム、アフガン、イラク
と戦争をくり返している現実が当然視野に入っている。
戦争だからといって非戦闘員を無差別に殺していいのか。
戦にもルールがあるハズだ。でも実際はそうはなってない。
NYのツインタワーのテロ以来そのことが裏返しになってアメリカ
に返って来ている。卑劣が卑劣を産む。
 映画は、そこをバックボーンにしつつ藤田まこと演じる司令官
の部下や家族に対する潔さや庇護の取り方をメインに謳う。
この岡田中将が藤田さんだからよかった。人間味がうまく引き出せ
ている。こういうシビアーな話は、フランキー堺もそうだったが
喜劇人の方が成功しやすい。
撮影は、マルチカムで寄りの望遠レンズが裁判の進行とともに望遠
側が増していって人物の表情がよく強調されるよう工夫していた。
このシナリオは、監督の修行時代にすでに書かれたものらしいが
最後に欲を言えば、「ふるさと」を歌うシーンを生かして、部下
19名のそれぞれの人間としての葛藤や岡田自体の宗教だけで
収まらない孫の成長を見れない苦悶と恐怖などのもっと人間的な
葛藤がかいま見られたよかったと思った。
まあ、会社や公務員の不始末が目立つ中で上司が自ら責任をとる
という本来尊いとされたスピリットを忘れていたことを思い起こ
させてくれる映画だった。
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by stgenya | 2008-03-04 03:38 | 映画・ドラマ