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幻の黒澤作品

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「罪なき罰」昭和24年に公開される筈だった黒澤明作品。
渋谷の古本屋で見つけた映画雑誌の巻頭広告に写真入りで
予告が載っていた。
こんな作品があったなんてまったく知らないし、どこにも
情報としてふれたものを目にしたことがない。
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主演三船敏郎、三条美紀、大映制作。
「酔いどれ天使」で一躍脚光を浴びた新人監督が東宝争議
で映画がつくれず、大映から声がかかり春の大作として
企画された。
原作が菊田一夫というのがいかにも大映らしい。
しかしこんな映画の存在は、誰も知らない。
おそらく企画はされたのだろうが、ポシゃってしまった。
この年は、「静かなる決闘」がつくられている。
大映は、ポスター撮りまでして宣伝しながら別のものに
なった珍しい例だろう。
大映東京の当時宣伝部にいた人が存命なら、この経緯を
知っているかもしれない。
黒澤自身、何もこの映画については語っていない。
当時黒澤は、脚本家としても活躍していたのでここまで
進んでいた企画ならきっと脚本は書かれていたのでは
ないだろうか。
この頃狛江市に住んでいたから、その後成城へ引っ越す
のに紛失したのか、今となってはわからない。
脚本だけでも読んでみたい気がする。
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by stgenya | 2008-05-31 22:54 | 映画・ドラマ

アフタースクール

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「アフタースクール」脚本・監督内田けんじ、アメリカンビスタ版
出演大泉洋、佐々木蔵之介、堺雅人、常磐貴子、田畑智子、他
 前作から4年ほど経っているか、新人監督としては長かった。
でも丁寧にシナリオをつくっていただけあってうまく出来ている。
こういうミステリー・パズルスタイルの映画の才能が日本の若い
監督にあるということに深く感心する。
 映画監督にとって大事なことは自分のブランドを確立すること。
それは、3本出来のいいヒット作をつづけてつくることで一年に
1回しか映画を観ない人でもああ、あの映画の監督ね。と周知さ
れるようになり、伊丹さんやスピルバーグみたいに新作をつくる
度に観客が集まり、その新作のテーマが社会現象になることだ
ってある。この内田監督は、苦しいだろうが題材を見つけて
自分のブランドをつくっていける位置にこの映画で来た。
だからこの才能を伸ばしていってほしい。
 さて「アフタースクール」。ニ転三転のだましの映画である。
映画の中盤に来て、少し停滞する。その次の瞬間からラストに
かけて登場人物の一人一人とそれぞれの設定までも一枚一枚カード
をめくるように見事にどんでん返しがあり、それこそエンドタイ
トルの最後の最後まで席を立てない。
劇場では、その次々にひっくり返る絵解きにため息や苦笑がおこ
っていた。映画のしあわせな瞬間である。
特に映画のファースト・カットの中学校の主人公の少女と少年の
ラブレターを渡す初恋の場面の設定がひっくり返されるとこは、
うまいとしか言いようがない。
いまここでストーリーを言ってしまってこの映画の面白さが本当
になくなってしまうので書かないが、予備知識などなく観た方が
絶対にこの映画はいい。
ただはじめの妊娠した常磐貴子と堺雅人の新婚夫婦の部屋に父親
らしき山本圭の存在があとでなるほどという設定になるのだが
そういえば見終わってから考えると人物の初登場のカットとして
ずいぶんルーズな撮り方をしていることに気付く。また2回目に
でてくる夫の堺が一日たっても帰ってこない部屋の常磐と同級生
の大泉とのシークェンスでふたりの会話の切り返しカットの奥に
山本圭が座ってしゃべる件は特におかしなカット割りでどうした
のか素人ぽっいなと想っていたら、ここもラストを観ると納得
する。普通妊娠した娘の夫が家に帰ってこないという場面で
友人の大泉が心配して話しているのに父親の山本がいないみた
いな話ぶりをしていて実はいたというカットつなぎでその父親
も焦らず呑気にしている。あれ? と思う。
見返すとこんな変なカットがいくつもある。
それがわざと計算されたぎりぎりの編集だったのだろう。
 またこの映画のもうひとつの大きな柱は、中学校教師の大泉
と探偵の佐々木の葛藤だ。学校の中だけで生きている奴に世の
中の何がわかると佐々木蔵之介が大泉に吐き捨てるセリフと
これ対応してラストで立場が逆転した佐々木に大泉洋がかける
言葉に゜学校なんて関係ない。世の中が悪いとか言っている奴
は自分から逃げているに過ぎない。’みたいなことを言う場面
がある。この映画で一番決まるセリフだ。
大泉にしても一番というか、見ているかぎりでの大泉洋の役者
としての大見栄というか、一番かっこよく見えた瞬間だった。
地味だがいいキャスティングだった。
 まあ、いいことばかり言ってきたので気になった点をあげれ
ば撮影が弱かった。何だろう、この手の映画の場合、特に今回
みたいなミステリー・パズルスタイルの展開ではもっとシャープ
で計算高いアングルが必要だったと思った。
できるだけノーマルな転びの場面は、普通の教師が友人の失踪
に巻き込まれていくのにサイズやアングルは少しづつでも変わっ
ていっても良かったように思った。昔だったら鈴木英夫や岡本
喜八やジョージ・ロイ・ヒルのような映像に拘った絵つくりが
練られたら間違いなくすごい映画になっていた。
内田監督の課題だと思う。でもいまこの彼の才能を惜しまない
投資をしてくれるプロデューサーがほしい。
次回作に何年も待たせるようではダメだ。ちゃんと本作りから
金をつぎ込んでどんどん撮らせないといけない。
彼の書く映画台本には、莫大な黄金が埋まっているのだから。
ともかくこの才能を祝福しよう。
そして次作がたのしみな監督である。
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by stgenya | 2008-05-25 04:16 | 映画・ドラマ

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

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「There Will be Blood」脚本・監督ポール・トーマス・アンダーソン
原作アプトン・シンクレア"OIL"。美術ジャック・フィスク。
出演ダニエル・デイ=ルイス、ポール・ダノ、ケビィン・J・オコナー
 三時間近い長編だが、まったく無駄がなく息を詰めて観た。
なんだろう。この重厚感。そして巨大な壁画の現物を見ている
ようなリアル感。アメリカの20世紀初頭を生き抜いた石油に
取り憑かれた男の話である。
 それをあの「ギャング・オブ・ニューヨーク」のダニエル・デイ
ルイスが演じている。というかなりきっている。
はじめに石油を採掘する労働の一部始終を見せる。かなり丁寧に
描いていくことでその後のカルフォルニアでの大油田を個人資本
で試掘しパイプラインを敷くまでの行程がよくわかる仕組みにな
っている。西部に石油で一山当てて大金持ちになった男ダニエル。
その一代記を静かにそして冷徹に追っていく。
子供が石油の吹き上げで聴覚をなくす不幸や腹違いの兄弟が出て
きたり、何より新興教会の若い怪しい神父との確執などで主人公
が徐々にその冷徹で鬼のような本性を現してくる。
ここの転の部分がうまい。いつの間にかこの男の身のうちに入っ
てしまって、ひどい男だ、金と欲に取り憑かれた悪魔のような
成り上がりだ、と思いながらも激しい憎悪がおこらないのだ。
役者がうまいからか、運びが流麗だからか、つい惹き付けられて
しまう。これは、ブロットと話の構成に大きなしっかりとした
柱があるからだ。ダニエルは、ほとんど自分の生い立ちを語らない。
かろうじて連れ歩いている男の子は、母親が産んですぐ病気で
死んだ(ここはラストにどんでん返し)ということと、腹違いの
兄弟に育った家が居づらくて飛び出た、立派な家の調度がまた
ほしいと言ったりするだけ(ここも凄まじいどんでん返しがある)。
 つまりテレビドラマや日本の今の映画のようにすぐつらい過去
の生い立ちをベラベラしゃべってこんな人間にしたのは、誰だ
的なシナリオになっていない。ダニエルは、自分の信念、いや
もっと言えば神の見えない力強い手で行動している。
何も語らないがおそらく欲に取り憑かれる人間になるにはそれ
なりのつらい過去があったのだろうと推測させる顔をしている
のだ。それは、顔を単にしているだけでなくその悲喜劇の男
そのものになっている。
 だから最後にフィニッシュっていうセリフで終わったときで
もダニエルを全否定できない。血を見るぞ!そう叫ぶ悪魔。
この映画の本題は、ここにある。正義をかざす偽善者と悪魔
を装う本音野郎。この対立軸が大きくあるからわれわれは
この映画を最後まで観てしまう。自由や平等や平和を題目に
金を儲けている奴と仕組み。実はこれらこそ悪魔の化身では
ないのか。実利と現実を見抜いている悪党のオレの方が
マシではないか。クラシックが流れるタイトルバックの間
そんなことをダニエル・デイ・ルイスが囁いているように
聞こえて仕方なかった。そしてロバート・アルトマンに捧ぐ
というクレジットがエンドロールで出る。
私はむしろこの映画はキューブリックに近いものを感じた。
音楽の不協和音が「2001年ー」の猿の群れのときに使わ
れた音楽に似ていたのもあるが、画面の両端に人物を大きく
配置したりロングと手持ち移動のショットの当てハメ方が
キューブリック的だった。
シネスコの特に子ともが事故にあって担ぎ込まれるときに
右片隅の煙突から黒い不気味な煙が出ているのも象徴的な
カットだった。
 この重厚な映画が東京一館で先行上映でしかやっていない
ことにまずどうにかしてほしいと思う。マスコミが騒いでいま
上映館が増えちゃった(原一男の言う通り)内容のわからない
映画があるくらいならもっと時間に怖じ気づかず増やしてほしい。
特に日本の役者はみんな観るべき映画だ。
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by stgenya | 2008-05-07 21:17 | 映画・ドラマ