<   2009年 04月 ( 2 )   > この月の画像一覧

スラムドッグ・ミリオネア

d0068430_18365168.jpg

「スラムドッグ・ミリオネア」製作Pathe film他。監督ダニー・
ボイル、脚本サイモン・ボーフォイ、出演デヴ・パテル、フリ
ーダ・ピント他。
  今年のアカデミー賞8部門受賞作。インド舞台のイギリ
ス映画。
とても躍動感があり、切なさがあり、シナリオ構成がしっ
かりして久々の映画らしい映画を観て、泣けた。
「トレインスポッティング」の監督らしくスラム街になる
と画面が斜めになり、疾走して貧乏の底で生きることの現
実を見事に切り取ってバラックの家や路地の匂いや熱気を
表現していた。
特に子供時代の兄弟のエビソードは、現実が恐ろしいだけ
心に深く入り込んで涙が止まらなかった。
今の日本の若い人は、これをフィクションとして見るかも
しれないが多少貧乏を知っているとドキドキする。
 全体の構成が良くできていてクイズ番組で賞金を獲得し
て、それもスラム街出身の無学の若者がミリオンダラーの
頂点にいくのでおかしいと思った警察に捕まり拷問を受け
て、クイズの一つ一つがどうして答えられたか尋問する形
でそのクイズの問題の答えと少年の生い立ちがそれぞれダ
ブって、物語の骨格を骨太に練り上げている。幼い兄弟が
貧民窟で育ち、宗教戦争で母を殺され、子供の虐待村へ囲
い込まれ一人のラティカという少女と出会う。
体にキズを付けられる危機一髪から列車で兄弟サリームと
ジャマールは逃れる。そのとき逃げ遅れたラティカは、の
ちに娼婦となってジャマールと再会する。
そして悪の組織に入った兄や初恋のラティカと離ればなれ
になりクイズ「ミリオネア」に出演して、もう一度別れた
ラティカや兄に会うというストーリー。
この回想形式をクイズの答えとリンクしたところが新しか
った。その中でも列車で潜りで物売りをして稼ぐ兄弟が車
掌に見つかって振り落とされて、土煙の中立ち上がると成
長して十代になっているという描き方は、最も映画的だっ
た。
 階級社会や貧困の悲惨さを初恋を貫く主人公ジャマール
の一途さと幸運なクイズで億万長者になるという発想をス
ピーディーにそして情緒豊かにまとめて、監督のダニー・
ボイルは素晴らしい。
インドを舞台にして、テレビクイズ番組をモチーフに愛と
友情と社会の矛盾を巧みに描いて誰が観ても、どこの国で
観てもワクワク・ドキドキして、そして切なくなって最後
はハッピーエンドに終わらせる手腕に感心した。
この内容の激しさは、イギリスでもアメリカでも日本でも
もはや出来ない素材になってしまって、インドだから成り
立った。とても映画的な映画だった。
ひとつシナリオ的に注文をつけると、大ラスで「三銃士」の
三人目の名前を言えという問題にテレホンのライフラインで
ラティカにつながってわからずジャマールが一人で答える。
ここに三銃士の三番目の名前を誰かがつけたとすると
面白くなったんじやないかと思った。
たとえばラティカの流した子供の名前とか、兄弟の顔を知
らない父の名前だとか・・・
まあ、あざといか?このクライマックスがうまく落ちると格好
いいシナリオになると思った。蛇足かもしれないが・・・
そしてエンディング。人物紹介風にクレジットと役の各年代
の写真がでてくるがジャマールとサリームの幼い兄弟のク
リクリした大きな眼が印象的で心に響いた。
お金とは何か、運命とは何か。
切実に考えさせられる映画だった。


[PR]
by stgenya | 2009-04-23 19:23 | 映画・ドラマ

イントウ・ザ・ワイルド

d0068430_9425977.jpg

「イントウ・ザ・ワイルド」監督ショーン・ペン、パラモン
トE製作 出演エミール・ハーシュ、ハル・ホルブック、ウ
ィリアム・ハート原作ジョン・カラカウアーの同名ノンフィ
クションの映画化。
 これは、青春の彷徨と人間探求の爽やかなロードムービー
である。
いつの時代にも青年は大人の世界へ入る時大いに悩み苦しみ
から逃れるために旅に出る。
青春映画の一パターンとして大人や社会への反発から旅をす
るロードムービーが何年かおきにつくられる。
その中でこの映画は、なかなかよくできた映画になっていた。
 かつて「イージー・ライダー」や「ウッディー・ガスリー
わが心の旅」などのすぐれた映画があったがこれらにつづく
ものだと言える。
 話は、大学を卒業したばかりのクリスが就職もせず、一人
ドロップアウトして無賃旅行の放浪に出るところから始まって
ウェインという農場主に世話になったり、ヒッピーの年取った
カップルと砂漠で過ごしたり、元軍人の老人に息子のように
親密な仲になって、アラスカの雪の残る荒野へ一人旅を敢行
する。この人々がみんなそれぞれ悩みを抱えていて、素人の
スーパートランプと名前を変えた主人公にシンパシーを寄せつ
つ思春期から大人へ脱皮しようとする姿に影響をあたえる。
 クリスは喧嘩の絶えなかった両親との桎梏から抜け出したく
て、長くココロのどこかに空白があったのを大自然の中で自力
で生きることでその純粋な充足でもって埋めたかった。
自分は、この野生に自分を置かないとこれから先生きていけな
いと思った。その手がかりは、トルストイやソーロー、ジャッ
ク・ロンドンだった。
 彼がアラスカで川向こうに見つけた不思議な捨てられたバス
で猟をしながら生活して、手記を書き、毎日自分の歩んできた
過去をひとつひとつ思い返しながら生きる力を取り戻していく。
ショーン・ペンは、このa magic busの生活をシナ
リオの中心に置きながらなぜ彼が旅に出たかというシークェン
スを回想形式でつないで随所にアメリカン・ニューシネマ風な
方法で音楽をクリップ、クリップにかぶして場面と場面をつ
なげていた。
ニ分割やスローモーションなどを使ってミュージックビデオ
スタイルを取り入れて、即興演出して自由に編集していた。
これがまた青年が自由を取り戻す旅の映画にぴったりしていた。
ラストを言ってしまっていいのか、わからないがあの悲劇的な
ラストもちょっとした手違いといったことだったので「モータ
ーサイクル・ダイヤリー」や「卒業」のような胸を撫で下ろす
結末にはならないが、彼が生きる準備ができた矢先だったから
観ている方としては、ココロに爽やかさが残る。
 なんといっても最終章人間らしさで出てくる昔沖縄に駐留
している間に妻子供を事故で失った元軍人の老人との心
の交流がこのドラマの核を示していてココロに残った。
実の父との間に違和感を感じて苦しんでいたクリスが他人の
老人と親子の情をもったことで彼は、救われたし、この放浪
の旅が大きな意味をもったことで又彼は人間の社会へ戻る
手筈が整った。この岩山での描写は、ペン監督秀逸のシーン
だった。
 ひとつだけ欲をいえば両親の描き方が説明的だけに留まっ
たのが惜しかった。もっと何かできた気がする。
僕は、この映画を観ていて古いが斉藤耕一の「旅の重さ」と
いう高橋洋子主演の映画を思い出して、切なくて伸びやかで
爽やかな気持ちを思い返していた。
ココロ洗われる清々しいショーン・ペン監督作品であった。
[PR]
by stgenya | 2009-04-17 10:51 | 映画・ドラマ