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春との旅

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「春との旅」脚本・監督小林政広、制作モンキータウンプロダクシ
ョン。出演仲代達矢、徳永えり、大滝修治、柄本明、戸田菜穂他。
 仲代さんが小林監督の脚本に気に入り自分のスケジュールのため
に三年監督に待ってもらってやっと今年完成公開した老人と孫のロ
ード・ムービーである。
 Vシネマの小さな映画からスタートして、低予算だけれど自分の
スタイルの映画を20年近くやってきたある意味孤高の映像作家の
新作は豪華名優を散りばめた人生そのものを正面から捉えた良心的
な映画になっていた。
 人間は自分の死とどう向き合いどのように対処していくのか。
高齢化社会の日本にもってこいのテーマだ。しかも放蕩のかぎりを
尽くして孤独で嫌われ者の仲代老人が孫の春が失業したことから寒
村のボロ屋から出て、兄の家、姉の旅館、弟夫婦の家へと自分を置
いてくれと訪ねて歩く。しかしどれもうまくいかない。
そして孫の春の実父を訪ねる方向へ・・・・
 こう書くと「東京物語」の構成を思い出す人もいて、なかなか
魅力的なプロットだと予想する。兄弟と言ってもみんなそれぞれ
大人になると自分の生活があるので子供の時のようにはいかない。
ましてやわがままで頑固な男寡ではなおさら。
 この老人仲代の身を預けるための兄弟周遊は、シナリオ的に行き
詰まる。しかしこの映画の本当の視点は、老人の人生放浪ではない。
 後半全員に断られた仲代に孫の春が実父に逢いたいと今度は
老人が孫に付き添って、再婚生活をしている香川照之の父に遭いに
いく。これがミソでここを思いついたときにシナリオは完成したと
思ったことだろう。
 この二部構成は果敢なく、人の生き方のバリエーションを表出し
てうまい。ただぼくは、春の実父の再婚相手の戸田菜穂のつくり方
がお手軽過ぎたように思う。もっとやり方があったんではないか。
 この後半室蘭の香川の家に行く。なかなか遭ってくれない父。
妻戸田は、いいのよ、春ちゃんにあってげてというが逃げる。
ここから私の創作だが、お祭りか、ばんえい競馬か、遊園地で仲代
の祖父が破れかぶれで一世一代の芝居をして、父と娘を遭わせる。
二人だけの会話がある。それを遠くから見ていた戸田と義父の仲代
がやっとほっとする。すると今度は戸田が家族づれで溢れている
お祭りの中でお義父さん、家にしばらくいてくださいと映画のよう
に言う。しかしもう仲代は自分の死期は自分で引き受けようと決め
ているので、つい刑務所に入っていて遭えなかった気の合う弟の
ことで嘘をいう。いや、そいつが大金当てて一緒に住もうと言う
んだと笑って戸田にありがとうと断る。
 帰りの電車でそのことを知っていた春は祖父にバカだとなじる。
でラストシーンになる。
 映画の途中からそんな別の筋書きを考えて見ていた。
またもうひとつ気になったのが淡島千景の姉と旅館の客席で仲代
と会話するのに逆目線でわざと撮っていた。
どうだろう。何か変った趣向でやりたかったのだろうがその効果
はちょっと疑問だった。すれ違いを表すのだったら他も統一して
いないといけない。スタイルとはそういうものではないか。
 まあ、余りにシナリオの練られていない邦画の多い中でいい
キャストに恵まれ、いい映画になったのではないだろうか。
この先拡大ロードショーをのぞむ。




 
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by stgenya | 2010-05-31 18:09 | 映画・ドラマ

極楽大一座 アチャラカ誕生

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「極楽大一座アチャラカ誕生」脚本白坂依志夫、監督小田基義
昭和31年東宝作品。出演エノケン、ロッパ、金語楼、三木のり平、
トニー谷他。
 先週から神保町シアターではじまった「喜劇映画パラダイス」
特集の一つ。「喜劇人オールスター大行進」の「乱気流野郎」
(松竹にクレージーが出た珍しい番匠義彰監督作品)と一緒に見た。
 「アチャラカ誕生」の元は浅草の昭和7年の舞台が元でその映画版。
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しかもこの作品があの名脚本家白坂依志夫のデビュー作。
だからファーストシーンで戦争中の慰問劇団公演が出て来て、
戦後ある村でその時の上官と部下劇団員が再会するという構成に
なっていてそれに白坂氏を思わせる脚本家志望の青年と元上官で
村のご意見番の古川ロッパの娘との親に反対されながらの恋愛を
絡めて作られている。どさ回りの芝居ではなくリアルな芝居を要求
される羽目になる劇団騒動の面白さがポイント。
 しかも女形しかいなかった劇団に急遽ヒロインに抜擢される売店
の娘役が神田正輝の母の旭輝子だった。原作が日劇の東京喜劇まつ
りとなっているから急拵えでつくられた53分の中編。
金語楼が座長で看板スターのエノケンにのり平、トニー谷のふた
りの女形がからんでのドタバタ劇中劇。さすがにこの名喜劇人の
演技が今でも笑わしてくれる。特に金語楼とエノケンの掛け合い
は、安定感があり、エノケンがボケても金語楼が引いて受ける技
は脂ののったベテランの味。
 話の芯が古い浪速節のどさ回りの芝居では客が来ないから、
アメリカの南北戦争を題材に新派大悲劇をやろうとするもの。
 だから秀吉や義経をやっていた劇団員がいきなりトムとか
メアリーとかになって翻案芝居もどきをする。
つまり「アチャラカ」の誕生というわけ。
これは又戦後民主主義のGHQの検閲の名残りのような路線で
もある。
 しかしこんな昔の中編喜劇に劇場は満員だった。
そしてその観客たちは、もちろん中高年ばかりだがどれも満足
して帰って行った。むしろこんな平成の沈鬱な時代だからこそ
カラッと明るい喜劇を観に来ているのだろうか。
いま吉本を中心にしたお笑いの氾濫の中で昭和の実力派の喜劇
は本当に有効なカウンターになる確信がした。
 面白くないのに事務所の力で露出しているニセモノと舞台で
培ったホンモノの喜劇ではその映画から受ける生命力が全然違う。
 是非のこの喜劇特集は6月11日までやっているので足を運ば
れることをおすすめする。
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by stgenya | 2010-05-22 18:13 | 映画・ドラマ

クロッシング

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「クロッシング」脚本イ・ユジン、監督キム・テギュン
出演チャ・インピョ、シン・ミンチョル、ソ・ユンフア他
 2008年韓国映画。配給太秦。
北朝鮮の脱北者の話。二年も日本上映が遅れた。それには
シネカノンの李鳳宇氏が絡んでいたらしい。手付けの10%だけ
金を制作者に渡して上映しないで放置している間にシネカノンが
倒産した。韓国側はどうもわざと上映しなかったと怒っている。
 ゴールデンウィークの最中銀座シネパトスで長蛇の列が出来て
入りきらないぐらい満員の客席だった。
 前評判から悲しすぎる内容で涙がとまらないと言われていて
実際観てみると、思ったより表現が抑えられていてむしろ淡々と
ストーリーが展開してゆく。それは監督の映画の眼力だろうと
思う。だから自然に観れて後々ココロに残る映画になっていた。
 ストーリーは、サッカーの国代表で将軍様から表彰されてテレ
ビを貰ったぐらいのサッカー選手で炭坑夫の父と結核で寝込んで
いる母とをもつ一人っ子のジュニの家庭を通して北朝鮮で生きて
行くことがどれだけ過酷かを物語って、毎日の食べるものがどんど
ん減って行って栄養のない食事で母の結核は深刻になる。
 ある日父は母のために肉をごちそうする。ジュニは喜ぶが、可
愛っていた飼い犬がいないことに気づいて父を非難して泣き出す。
 悲劇はまだ序の口。父は母の病気の薬を手に入れるために中国
へ脱北する。しかし捕まっては逃げてしている間に北で待ってい
る母は死んでしまう。そして子供のジュニは孤児に・・・
果たして親子は再会できるのだろうかという事実を踏まえた筋書
になっている。
 冒頭父と子がサッカーをするときに天気雨が降り、ジュニ
がこの雨が好きだということがラストの重要なカットにかかって
いる。非常に映画的な仕組みを考えたものだ。
この映画が成功しているのは、政治的な題材でありながら告発調
ではなく、ただただ離ればなれになった家族が会いたいというだ
けに徹して描いているというところがポイントだったように思う。
 私としてはいい映画でみんなに観て貰いたい。それで敢て欲を
言うと、父親役のチャ・インピョが格好良過ぎて、もっと北の人
間として父親としての幅が表せたらラストの感動はさらに深まっ
ただろうと思った。子役のシン・ミョンチョルのひた向きで純粋
な瞳にココロ奪われた身としてはそこだけが心残りだった。
まあ、拉致問題が長引く中是非観てもらいたい一品である。
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by stgenya | 2010-05-07 20:32 | 映画・ドラマ