「潜水服は蝶の夢を見る」」脚本ロナルド・ハーウッド、 監督ジュリアン・シュナーベル。 主演マチュー・アマルリック。 雑誌ELLEの編集長だったジャン=ドミニク・ボビーの実話原作 を元に映画化されて第60回のカンヌ国際映画祭で監督賞を とった作品。 この原因不明のロックト・インシンドロームという全身麻痺 の病気があることにびっくりした。何も動かない体で唯一左目 の瞬きだけが世界とつながっている。ただこれをどう映像化する かである。この映画はこの左目の瞬きを前半主人公の主観だけで 絶望として見せて、この悲劇を受け入れてふたたび世界と コミュニケーションをとる覚悟ができた地点から後半は、客観 描写にきり変わるという手法でうまくつくっている。 人が仮死状態で動けない体から回想と空想で物語りを展開し ていく映画でかつて「ジョニーは戦場へ行った」や「オール・ ザット・ジャズ」などの名作があった。 ではこの域に「潜水服はー」が達しているかといえばそうは なっていない。それは、何に原因があるのか。思いめぐらす ところは、シナリオだ。 「戦場のピアニスト」の脚本家ハーウッドは、片目の瞬き のYesかNoで読み上げるアルファベットで自伝を書き上げた という事実に甘んじすぎたのではないだろうか。 極めて映画的なこの奇抜な事実をモチーフとして、これ以上 ないのだから、ほおっと筆を安んじたような気がしてならない。 この映画の後半の主人公ジャン・ドーの自伝を通してもっと この人が家族や妻や愛人についてどう思ったのか、あるいは 死というものを目の前にしてどう感じたのかを明確に整理し てほしかった。あの肉の塊となったジョニーは、青春の真っ 只中で戦場での現実をモノクロとカラーとで明確に見せてくれ た、またボブ・フォッシーは、妻と愛人と娘と母という女の 間で芸人としての世界への別れを明確に切り取ってくれた。 そこでこの「潜水服ー」では、事実の羅列から大きく 飛躍できなかった。この飛躍こそが脚本家の腕のみせどころ だったハズなのに・・・ シナリオ構成を見てみると、1瞬きとコミュニケーションの 発見 2出版社筆記の女史と自伝作成 3スピーカーフォンと 妻と愛人の関係 4車椅子と海辺の風景 5発作と死 この間に90才を超えた孤独な父がいて自分より息子が先に 逝くかもしれないことの深い悲しみ(ベルイマン映画で懐かし いマックス・フォン・シドーだった)と家族でドライブに出 かけて息子を乗せて走っているときに発作が起きて植物 人間になる過程も描かれる。ただ・・・ ここでジャンは、妻に対してどう思ったのか、愛人に対して どう感じたのか、自分の歴史として父に何を言えるのか、 死を覚悟して神とは何だったのか、そして極普通の生活者と してこの潜水服で深海に沈められた気分はどうだったのか この辺がドラマ的に反応していないから、最後まで見て 烈しく心動かされなかった。 有名雑誌の編集長でモテモテだったジャンは、原作を読んでない からわからないが、女というタームで切っても掘り下げられた のではないか。 看護婦、言語療法士、出版社筆記女史、妻、愛人ときれいな 女ばかりが出てくるわけだから、これらを蝶のイメージと ダブらせてもっと深く描けるように思える。 原題は「潜水服と蝶」といって夢は、入っていない。 でも蝶の夢として動けない体で唯一できることとして成り立 ったと悔やまれる。 瞬き以外に世界とつながってできることは、想像力と記憶と 劇中でもモノローグとして言っているけれどこの想像力と 記憶は、又映画の醍醐味でも基本でもある。 ここから突破口が開けたハズである。 映像としてキレイにうまくつくっているのにもっと中身を 練れれば傑作になっていた。 現実のジャンは瞬きひとつで書かれることは、限られていた だろう。そこをもうひとつ飛躍してクライマックスへ飛べた ら、生き生きとして蝶がスクリーンに幕が下りても舞って いたかもしれない。 それは、想像力と記憶によって。
by stgenya
| 2008-02-24 23:47
| 映画・ドラマ
|
おすすめサイト
カテゴリ
フォロー中のブログ
最新のトラックバック
以前の記事
2024年 01月 2022年 08月 2022年 05月 2021年 10月 2021年 05月 2021年 02月 2020年 11月 2020年 07月 2020年 05月 2020年 04月 2019年 10月 2019年 01月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 09月 2017年 07月 2016年 10月 2016年 09月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 01月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 02月 2013年 11月 2013年 08月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 04月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2006年 01月 2005年 12月 2005年 10月 2005年 08月 2005年 07月 2005年 06月 ライフログ
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||