「12人の恐れる男」ロシア映画。提供へキサゴン・ピクチャース。 監督は、「シベリアの理髪師」のニキータ・ミハルコフ。 脚本、A・ノヴォトツキイ=ヴランフ、B・オペリャンツとニキータ。 当然この映画はアメリカのシドニー・ルメットの同名の名編の ロシア版リメークであるが、リメークのあり方はこうあるべきと言 えるほどうまく創っていた。 何と言っても2時間40分の裁判劇でどうかと思っていたが全く そんな心配はなく、ハラハラして最後まで目が離せなかった。 まず冒頭義父を殺した少年の描写からタイトルバックが始り、 本編の陪審員の討議の場面になる。この頭の崩れたビルに 転がる死体や怪しい犬の描写は、チェチェン戦争の伏せんに なっている。しかも討議が進行する合間に再三インサートされ ラストでその犬が咥えているものがわかる。 まるで黒澤映画へのオマージュかとも思ってしまうが、この多 民族国家新生ロシアの複雑な問題をチェチェンの少年犯罪に 題をとってニキータは、このリメークをやりたかったのだと わかる。そこが前作と違うところである。 はじめに無罪を主張する日本とロシアの合弁企業主のマコヴ ェツキイは、一時ホームレスになったとき女性が手を差し伸べて くれて自分の運命が変わったということから少年の有罪に懐疑 を持つ。そして11対1だった決定的な有罪が、彼の人生談から 一人一人が少年の無罪を考え始める。 陪審員とはいっても人間。それぞれが自分の人生の置かれた 境遇や経験と照らして少年の義父殺しを考える。 父に捨てられたユダヤ人、テロリストの配管工の叔父を人の 善意で救われた男、地上げの人殺しを知る建築家、イカサマ で金をもうける葬儀屋、息子の心を読めなかったタクシードラ イバー。ナイフの扱いを熟知したカフカス人の外科医など 12人がそれぞれ少年の犯罪の真相に迫って無罪へと動いて 行く。大きな有罪の壁だった目撃者のふたりの証言を再現 して少しづつ履がえして最後に陪審員長のニキータ自身だけ が有罪と言い張る。それは少年の命を思ってのことだった・・・ ストーリーは、まあこんな風にすすむがまずロシアらしい というか審議の場所が裁判所が工事中で学校の雑然とした 体育館にしたこと。これがなかなか混乱した脳の中のようで 映画的である。そして渋滞して無罪からまた有罪へと動きかけ て再び証言者の矛盾が解き明かされて無罪へすすむときに どこからともなくスズメが一羽入ってきてずっと最後まで体育 館の中を飛び回る。まるで檻にいる少年の化身のように。 そしてラスト吹雪の外へ最初の無罪を主張した陪審員の手 で逃がされる。 これが詩的な表現だった。また始終配管の不気味な擦れる 音も映画的効果を高めていた。単にソ連時代の建築が手抜 きだったからというメッセージだけでなく詩的で心理描写の表現 としてうまく使われていた。 あの愛とヒューマニズムのニキータ・ミハルコフがよくこんな 社会派のリメークをやったなと思っていたがやはり巨匠は うまい。カットにスキや無駄がなく今の置かれた拝金主義 のロシアを憂えて情感豊かに裁判劇を描き出した。 役者でもある彼の演出方法は、いかに俳優が人物の気持 ちになるかということだった。目の前で自分が演技して気持 ちが入ったらカメラをフィルムがなくなるまで廻させて一番 いいところを編集するという現場に立ち会ったことがあるが まさに今回も一つのセットで順撮りして主役級の俳優をそろえ て芝居を練り出させた濃密な時間が記録されていてあっと いう間に映画を駆け巡らせていた。 単館であまり宣伝していないようだがマンガケイタイ小説の 映画化ばかりの邦画やCGオンパレードのハリウッド映画に 飽き飽きしている人には是非お勧めの映画である。
by stgenya
| 2008-09-09 18:34
| 映画・ドラマ
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